球種解説
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2003.9.19

 現在の野球は変化球全盛時代である。様々な球種が生まれ、テレビ局や新聞、雑誌によって呼び方が違ったりする。そういったことを含めてこのページでは解説していきたい。
 異論・間違い等ある場合は是非とも伝言板かメールにてお知らせ頂けると有り難い。
ストレートorファーストボール
 直球。日本がストレートでアメリカがファーストボール。ちなみにアメリカでは棒球をストレートボールとアナウンサーが言う時がある。
 ストレートと言ってもまっすぐ飛んでくるわけではない。本当に真っ直ぐに投げようとしたらボーリングの様に投げなければいけない(だからソフトボールの下手投げは本当に真っ直ぐだ)。ボーリングでイメージすれば、右投げは右から中央へ、左投げは左から中央への軌道になる。直線という意味ではストレートだが、まっすぐという言い方は(アナウンサーはよく使うが)語弊があるのではないかと私は思う。これにさらに上から下への高さが加わる。
 ちなみにサイドスローだと、ボーリングならガーターの外から中央へ向かって投げるような感じになり、左バッターだと左の横手は背中の後ろからやってくる感じになって球筋が見えないので打ちにくいことになる。
 アンダースローは左右の動きという点ではまさにストレートだが、下から上に球が上がってくるので、非常に空振りしやすい。
フォーシーム
 ボールの縫い目が、球が1回りする間に4本見えるように握って投げるストレート。人差し指と中指が縫い目にかかって力を入れられるので一番スピードが出る。バックスピンがよくかかるので初速も落ちにくい。日本の直球はほとんどがフォーシームである。
ツーシーム
 ボールの縫い目が、球が1回りする間に2本見えるように握って投げるストレート。フォーシームよりバックスピンがかからないので5km〜8km程球速が落ちるが、空気抵抗を受けて打者の手元で少しぶれる。よく、手元で微妙に変化するなどとも表現されるが、動いてボール1個前後なので、『ぶれる』という表現が一番ぴったりではないかと個人的には思っている。ほとんどの場合、ボール一個分程度沈むようだが、左右にボール半分程度、どちらかにずれる事もある。これは投げてみないとどうなるかわからないようだ。
 高校生でもスライダー・カーブ・フォークと投げる変化球中心の日本と比べ、アメリカは緩急中心なのでフォーシーム・ツーシーム・チェンジアップという球種セットを覚えるのが一般的になっている。
カットファーストボール(カッター)
 略してカッター。スライダー回転のかかったストレート。スライダーより速いが曲がりが小さい、という理解の仕方は間違いで、スライダーは投げてしばらくすると変化を始めるが、カットファーストボールは打者の手元で(右投手ならキャッチャー側から見て)右にボール1、2個ずれる球になる。言うなれば右変化だけするツーシームであると言える。
 普通、キレのある変化球というとよく曲がる変化球のことを差すが、キレのあるカットファーストボールという言い方をした場合は、ギリギリまで変化しないで、本当に打つ瞬間にぶれて芯を外れる球になる。逆にキレの無いカットファーストボールはほとんど曲がらないので、結果としてただ単に少し遅い直球のようになってしまう。
 この球自体は投げるのはそんなに難しくないが、10球中10球とも曲がる様にするのは鍛錬がいる。
シンキングファーストボール
 この球を解説するには先にシュートの解説をしなければいけないのだが、ストレート系統を扱っているので順番的に先に解説する。もしよければ下にあるシュートの解説を先に読んで頂くのも有り難い。
 ストレートの欄で述べた様に、直球とは右から中央に飛んでくる球だが、それが中央に真っ直ぐ飛んでくるのではなく、内側に入ってくるのがシュートになる。シンキングファーストボールはそのようなシュート回転をしている速球になる。手元で変化するのがシンキングファーストボールで、投げてすぐに変化するのはシュートというのは、スライダーとカットファーストボールの関係と同じであるが、カットファーストボールと違うのは左への動きだけでなく少し沈むので、シンキング(沈むのシンクのing系)ファーストボールと呼ばれる。
 メジャーでも投げる投手は多くない。グレック・マダックスの持ち球である。というか、彼はフォーシームは投げずカッターとこれを投げ分けて凡打の山を築いている。
 ちなみに、日本でシュートと呼ばれる球はメジャーでは全て『曲がりの大きい』シンキングファーストボールになる。シュートは肘を壊すのでアメリカで投げる投手はあまりいない。マリナーズの長谷川はシュートが決め球だが、シンキングファーストボールと呼ぶには変化が大きいので、アメリカでは(そんなに球が落ちるわけではないのだが)高速シンカーと呼ばれているようだ。
ムービングファーストボール(MFB)
 この球種は余り一般的ではない。いわゆる『癖球』と呼ばれる、変化してしまうストレート(普通に投げていてもどうしてもそうなってしまう人はいる)の事とを指す人もいれば、変化の大きいツーシームをMFBと呼ぶ場合もある。
 しかし、我がトータルベースボール研究所では、ツーシームとMFBは握りで分類することにする。ツーシームはストレートの握りなので、人差し指と中指、そして親指の3本で握る。これに対してMFBはボールをつかんで投げる。それってチェンジアップでは?と思われるかもしれないが、チェンジアップでは手首を固定して投げるが、MFBは手首を振りぬく。それによってストレートに近い球速が出るが、バックスピンがフォーシームやツーシームより少ないので、打者の手元でぐぐっとボール2個か3個程落ちる球になる。また、つかんで投げるということは縫い目に指をかけなくて良いため、どんな握り方でも投げられる。よって縫い目の位置によっては左や右にボール1個か2個、流れる場合もある。
 投げること自体は難しくないが、パックスピンをかけにくく完全に上体と腕の力だけで投げるため、スピードがなかなか出ないうえにコントロールもつきにくい。主にきちんと野球を教えてもらっていないカリブの諸島のピッチャーに多い。
 例をあげるなら元巨人のガルベスだ。彼はボールをつかんでストレートを投げるのに150キロも出ていた。多分、フォーシームで投げれば160キロは出たのではないだろうか。投げると言うよりは上半身のバネでボールをはじき出すような感じで、日本人にはなかなか難しそうだ。上で書いた通り、日本のプロのピッチャーがMFBを投げてみても130キロちょっとしか出ないのではないだろうか。カッターは150キロ出るからボール一個の変化でも効果があるのであって、130キロのカッターやツーシーム、MFBははっきり言って棒球と変わらない。
 余談だが、ガルベスはMFBとチェンジアップしか投げないのに16勝もしてしまったため、困り果てたパワプロチームはカーブやらシンカーやら投げもしない球種を持たせて強くしていました。
 上にも書いた通り、変化の大きいツーシームをMFBと呼ぶ事はかなり多いので、テレビ解説でムービングボールという言葉が聞こえたら、是非投手の握りを見て欲しい。掴んでいればこのページで定義するMFBで、上体の力だけで投げているフォームだろうし、普通に人差し指と中指でバックスピンをかけていれば、偶然よく沈むツーシーム(たまにフォーシームでも沈むうらやましい人もいる)を投げられるという事になる。
ナチュラルシュート
 普通にストレートを投げているのにシュート回転がかかっている人。意識せずにシンキングファーストボールを投げているだけでは?と思うかもしれないが、ナチュラルシュートはストレートと球速が変わらない。つまり、プロなら140キロや150キロでボール一個程投手の体の外側方向に曲がる球になる。普通の投手の球筋と違うわけなので、不器用なバッターだと戸惑う場合がある、という程度の球ではある。
 ちなみにナチュラルスライダーは無い。何故かと言うと、ストレートの最初の説明で書いた通り、ストレートも外から内の直線の軌道で投げ込むわけで、ボール一個か二個普通の人より内に入っても大差が無い。よって、ナチュラルスライダーと呼ばれてもいいストレートを投げる人はいるのだが、普通のストレートと余り大差が無いのでナチュラルスライダーという言われ方はされないわけだ。
シュート回転したストレート
 ナチュラルシュートとどこが違うんだ!と怒る方もいるかもしれないが、ここでは別々に定義させて頂く。両方ともシュート回転しているストレート、という意味では一緒だが、二つの違いがある。
1.ナチュラルシュートは全てのストレートがそうなるが、シュート回転は時折そうなる。
2.ナチュラルシュートは球速がいつも一定だが、シュート回転は、普通のストレートの時より球速が落ちる。
 よって、投手が疲れてきて、リリースポイントが早かったり、肘が落ちてきたりしてシュート気味のストレートになってしまうことを、ここではシュート回転、と定義させて頂く。

 もし、貴方が野球をやっていて、ストレートの球速にばらつきがあり遅い時はシュート気味だ、という時は、ストレートのフォームやリリースポイントが一定していない可能性が高いので、投げ込みをして全てストレートになる様に矯正することをお勧めする。もし投げ分けたいと言うのなら、ボール2.3個変化する本当のシュートを習得した方が良い。
 もし、全てのストレートがシュート回転しているのなら、それはここで定義するナチュラルシュートになるが、シュート回転しないように矯正すれば、貴方の球速は5キロ、場合によっては10キロ以上上がるかもしれない。ただ、無理に矯正してフォームを崩して他の変化球が曲がらなくなったりしても責任は負いません。ナチュラルシュートは、他の人のストレートと同じ球速が出て、はじめて効果があります。MFBの欄でも書いたように、(プロの球速で換算して)ナチュラルシュートは140キロ出るからボール一個の変化でも効果があるのであって、130キロのナチュラルシュートやカッターははっきり言って棒球と変わらない。
カーブ
 人差し指と中指を合わせ、それと親指の3つでボールを握ると言う点ではストレートと一緒だが、親指を固定し人差し指と中指でバックスピンをかけるのではなく、三本の指を体の外側(右投げなら右、左投げなら左)に回して投げる。
 これにより斜めのフロントスピンがかかり、利き手の反対側(右投なら左方向)に山なりに落ちながら曲がっていく。これがカーブである。文字で書くと仰々しいがこのような書き方になる。元々ストレートも右から中央にある程度の角度はつくのだが、カーブはストレートの感覚でど真ん中に狙って投げると、ちょうどストライクゾーンギリギリぐらいまで曲がって、膝元ぐらいまで落ちる感じになる。スピードはストレートより20km程遅い。ストレートが140kmなら、120km前後になる。
 投げた瞬間から山なりで回転も違うので見分けがつくが、スピードがだいぶ遅いのでストレート待ちで対応するのはプロでも難しい。ど真ん中のカーブを見逃したバッターを批難する解説者がいるが、私ははっきり言って初球ストレート待ちをしていてカーブが来たら見逃すのは、下手に凡打するよりよっぽど上策だと思います(2ストライクなら三振になるから無理にでも打たなければ仕方ないけれど)。また、軌道がストレートと全然違うので、アマチュアだとスライダーやフォークは偶然バットが当たることもあるが、カーブは練習しないと全く打てない場合が多い。プロでもカーブが苦手なバッターは多く、ちょっと出てきて活躍したら、カーブばっかり投げられて消えていく新人や外国人選手は死屍累々である。
 カーブのもう一つの特徴して、ストレートの腕の振りと比べて、どうしても肘が開いてしまうという点がある。その為、アマチュアの時はカーブを投げていたのに、プロに入ったらリリースする前の肘の位置でカーブだとバレバレなので春のキャンプで投手コーチからカーブを禁止される場合が多々ある(巨人の上原とかダイエーの新垣とか)。
 また、よくカーブは肘を壊すと言われるが、これは肘の力を使ってカーブを投げようとするとそうなるので(いわゆる肘投げ)、手首の力だけでカーブを投げようとすれば、実は変化球の中では1番肘に優しい。元オリックス・阪神の星野伸はストレートもカーブも同じフォームで、ただリリースする時に人差し指と中指を振ってバックスピンをかけるか、手首をくるっと返すか、の違いしかないとテレビで言っていた。どうしてもカーブで肘が開いてしまうという人は、そのまま投げていると肘を痛めるので、ストレートと同じように投げて、リリースだけ手首を返して回すようにしてみるべきだ。
 ちなみにブレーキが効いたカーブ、というのは、回転が多いカーブである。そうすると急激に落ちるようになる。親指の力が強いとよく回転がかかるようだ。ブレーキング・カーブとして球種として分ける人もいる。
スローカーブ
 プロで時速100kmぐらいのカーブ。草野球でも80kmぐらいのカーブを使って打者をきりきり舞いにしているおじさんがよくいる。
 握りはカーブと変わらない。では、何故カーブと別にしているかと言えば、投げる方法が違う。カーブは『前に投げる』のだが、スローカーブは『上に放り投げる』と言うのが違う。何故かと言えば、100kmのカーブは普通に投げてもキッチャーまで届かないからだ。よって上に放り投げる。それによってストレートの半分程のスピードでもミットまで届くのだ。上に放り投げるのだから落差が大きく、天井から足元まで落ちてくる。よくスローカーブは視界から消えると言う。顔を上げればいいじゃないかと言う人もいるかもしれないが、バッティングもゴルフも頭を動かしてはいけないのだ。よって視界から消えても顔を動かせない。かと言って突然上から降ってくる球など普通打てるわけがない。よって投げた瞬間バレバレの球種だが、誰も手も足も出ないわけである。
 ちなみにカーブと同じ握りなわけだから、力を抜いて上に放り投げるようにすれば、カーブを投げられる人なら誰でも投げられる。しかし、多分殆どの人がストライクが取れないだろう。ミットまでちゃんと届かない人も多いと思われる。ストライクゾーンにさえ入る様になれば、かなり有効な球種ではある。
縦カーブorドロップ
 ドロップはよく昔のカーブの呼び方だとする場合があるが、ドロップとは横方向への動きが殆ど無く、カーブの回転で下にだけ落ちていく球である。現在では巨人の桑田や岡島が縦カーブだが、ドロップとは呼ばれていない。
 何故横の回転がかからないかというと、実は指が短いとそうなるらしい。例えば元・巨人の堀内はドロップの名手として知られたが、彼は幼い頃右手の人差し指を第一関節まで切断している。それによってカーブを投げても斜めの回転がかからず、縦の回転だけになるため、縦に落ちるカーブになるらしい。桑田も指が短くてフォークが投げられないのが関係あるかもしれない。
 カーブの横へのずれ具合は人によって異なる。それは指の長さや球の回転数も関わってくる。よって縦カーブを投げられるのは天性のものである。
 
 ちなみに同じく縦に落ちる球であるフォークと比べると、ストレートに見えてストンと落ちるフォークと、最初から曲がっているカーブでは大違いだが、カーブはすっぽ抜ける事がないので…というか、すっぽ抜けた場合は暴投になるので、フォークの様にど真ん中の失投になる事がない。その分だけフォークよりも安全な球種だろう。
ナックルカーブ
 オリオールズ、FAしてヤンキースのエースであるマイク・ムッシーナの開発した球種。ナックルなのにカーブなのか!?というのは間違いで、ナックルとは爪を立てて投げる球種だが、ナックルカーブはカーブの握りで人差し指を曲げて爪を立てるようにして投げる。つまり、ドロップで説明した人差し指の短い堀内の投げ方と同じになる。
 つまり、ナックルカーブとは縦カーブの事である。ナックルの握りをミックスした縦に落ちるカーブなのだが、ナックルっぽく揺れながら落ちるという話もある。私が調べたところ、オリオールズ時代の同僚のカル・リプケンJrは揺れながら落ちると言っているが、小宮山は別に普通のカーブだと言っており、なんとも言えないが、ナックル程激しく揺れるわけではないようだ。
 縦カーブの欄で、これを投げられるかは天性だと書いた。ナックルカーブはマスターして投げられるかと思うかもしれない。しかし、普通の人は人差し指の爪が割れるだろう。ナックルと同じく、天性の爪の強さが無いと投げられない。
 ちなみにメジャーではムッシーナが開発後、何人かがマスターして投げている。
高速カーブ
 聞き慣れない球種だろう。私が勝手に作ったからだ(笑)。
 テレビで野球を見ていて、こんな光景に出くわさないだろうか。投手の第1球。少し山なりでシュルシュルと回転している、ストレートより遅めの球。そのままボール2個か3個沈む。そして解説者が言う。「スライダーでカウントを稼ぎました」。…横にずれていないのにスライダー? しかし、カーブとするには速いし余り曲がっていない…。
 トータルベースボール研究所では、この球種を高速カーブと定義させて頂く。なので余り他人には言わない方がいいかもしれない(笑)。原理としては、カーブを投げる時に親指の力を抜いて投げる。すると、回転が縦になるので、横に動かずにボール2個前後沈む。スピードはカーブより速く、(その投手が投げられるのなら)スライダーと同じぐらいのスピードになる。球速が遅くなげれればぐんぐん沈んでいくので縦カーブになるが、親指を使っていないのでこの握りで縦カーブに進化させるのは不可能に近い。
 実はスライダーとカーブの違いは、この親指を使うか使わないかの違いになる。なので、人によってはスライダーの握りで親指の力を入れると、この高速カーブのような軌道になることがある。カーブの握りで投げるスライダーでもあるし、スライダーの握りで投げるカーブでもあるわけだ。
 わかりやすいのは、大きくて遅いカーブと、早くて小さいカーブを投げ分ける人だ。この早くて小さいカーブがこの高速カーブになる。これを投手によってはスライダーにしている人もいるのである。ちなみにスライダーとカーブの間なので「スラーブ」と呼ぶ人もいるが、スラーブはもう一つの球種(沈むスライダーを参照)を差す場合も多いので、このページでは使わないことにしたい。
 これを使う投手が多いわけは、一つの握りで二つの球種を投げられるのでフォームが一緒に出来るという利点があるからだ。カーブを投げられる投手がスライダーをきちんと覚えるよりも、カーブのフォームのままで親指の力を抜けば、それでもう一つの球種になる。
 よって、ピッチャーによって、本当のスライダーを投げられる人はこれをカーブと言ったり、2種類のカーブを投げる人はこの速い方を、速くて小さいカーブではなく、スライダーを投げられると言っていたりするわけだ。スライダーとは名前の通り「スライド」する球種であろうから、スライドしないこの球種は、ここではスライダーとは認めず、高速カーブと定義させて頂く。
 よって、冒頭に話が戻るが、シュルシュルと130kmぐらいでボール2個前後縦に沈む球種を見たのなら、ここで高速カーブと定義した握りで投げているんだと思って頂ければありがたい。
スライダー
 指はストレートやカーブと同じく、人差し指と中指、それに親指の三本である。親指と人差し指の間はなるべく開けて、左右を指で持つようにする。このまま腕を振り抜くと、自然に手首が返るので地面に平行に回転する球になる。ボールを地球だとすれば、赤道線で回転する球になる。なので投げてからしばらくすると、突然かくっと投げた利き手の反対の方にスライドしていく。スピードはストレートより10km程落ちる。肘投げになるので、非常に肘を壊しやすく、アメリカでは技巧派が使う球で速球派は余り使わない。しかし、日本では高校野球レベルでも多くの投手が投げ、速球派でも多くの投手が使っている。カーブよりストライクゾーンに入りやすい。
 親指の力が入ってしまうと、真横回転ではなく斜め回転が入ってしまうので、曲がりの小さな早いカーブの様になってしまう。高速カーブの欄でも解説したが、このページではスライドしない場合はスライダーとして認めない。
 また、高速スライダーと呼ばれる球種があるが、スローカーブや高速カーブの様に、握りや投げ方が微妙に違うわけではなく、ただ単にストレートと変わらない球速で投げられるスライダーがこう呼ばれるので、このページでは球種として扱わない。
 但し、人によっては、ここでスライダーと定義したものを高速スライダー、ここで高速カーブとしたものをスライダーと定義する人もいる。
沈むスライダーor斜めスライダー
 かくっと曲がる時、横にスライドするのではなく、斜めに沈んでいくスライダー。スライダー自体もボール1、2個は沈むが、沈むスライダーはキャッチャーの胸元から膝の辺りまで沈んでいく。軌道的にはカーブと似るが、山なりのカーブと、直線で来てがくっと沈むスライダーというのが違いになる。よって、ストレートと見分けがつきにくく、非常に打ちにくい。よって、(カーブのような軌道なので)これをスラーブと定義する人がいるが、私の場合は山なりがカーブ、がくっと曲がるのがスライダーと定義している。
 ちなみに特別な投げ方があるわけではない。スライダーは投げる人によって、真横にスライドする人、落ちながらスライドする人、縦方向にスライドする人に別れる。無論、人によってはいくつかのスライダーを投げ分ける人もいる。それは微妙な指の使い方だったり、力加減だったりするわけだ。
縦スライダー
 がくっと曲がる時、横にスライドするのではなく。縦に沈むスライダー。フォークと同じに感じるかもしれないが、フォークは落ちる時に減速するが、スライダーはほとんどブレーキがかからないのでより打ちづらい。フォークの様にど真ん中にすっぽ抜けると言うことも回転上有り得ない(カーブと同じく、すっぽ抜けた時は暴投になる)。
 赤道軸での回転が、前に傾いていくと沈む球になると、沈むスライダーのところで解説したが、それがどんどん傾いていって、地面に対して垂直面で回転するようになると、縦に落ちるようになる。普通に投げられる球ではないので、私が知る限り、縦スライダーを投げる人は例外無く肘をやってしまっている。
 ちなみにスライダーはカーブやフォークと違って、投げる人によって球速や軌道がかなり違う。斜めスライダーも縦スライダーも握りは基本的にスライダーと変わらない。縦に近い変化をする人もいるし、本当に真横にスライドする人もいる。何度も書いているが、直線で来てガクッと曲がる球がスライダーであるとここでは定義している。その方向やスピードによって呼び方が変わるわけで、基本的に握りは1種類である。
 ちなみに投げるスライダーが余り落ちない縦スライダーになっているピッチャーは結構いるのだが、フォークの様に落ちないと縦スライダーの使い手とは認識されないことが多い。
シュート
 投手の利き手の方に変化する球。曲がるのではなく、食い込んでくるという表現が一番似合う。スライダーのようにがくっと曲がるのではなく、途中で段々と曲がっていく。よって、スライダーより全体的に変化量は少なく、また基本的に横変化だけになる。沈んでもボール1個前後になる。
 メジャーでは、よく曲がるシンキングファーストボールに分類される。俗にカミソリシュートなどと言われるボール4つも5つも曲がるシュートは、落ちない高速シンカーということになるらしい。
 手首の回転がスライダーと逆で、人間工学上、有り得ない捻りをするので、手首や肘を痛めやすい。しかし、サイドスローやアンダースローだとスライダーを投げるよりも自然な動きになる上によく曲がるので、サイドスローの投手が使う場合が非常に多い。
シンカー
 簡単に言えば沈むシュート。カーブの逆方向と捉える人もいるが、カーブは山なりだが、シンカーは遅いスピードで来た直球が途中でがくんと沈みながら曲がる。しかし、スライダーのように中央からストライクゾーンに出てしまう程に横に曲がることはない。動きとしてはスライダーだが、球の通る軌道を線で書いたらカーブと同じになる言う感じだろうか。むちゃくちゃな説明をしているように感じるかもしれないが、要するに「反対方向のカーブではない」と言う事を理解していただければ有り難い。
 無理矢理なスピンをかけて投げているので、スピードは直球より20km程落ち、日本人のプロなら120km前後。球速的にはカーブと同じになる。シュートと同じく、オーバースローの人が投げるにはかなり無理があり、サイドやアンダーの人の球種になる。特に日本の場合、サイドスローの人の必須科目になっている。最も、サイドの人はスライダーを投げるよりシンカーを投げる方が簡単なのだが。
スクリュー
 左の人のシンカー。という捉え方は大間違い。先程、シンカーは反対方向のカーブではない、と書いたが、実はスクリューこそが反対方向へのカーブになる。事実、メジャーでは右でもスクリューはスクリューで、左でもシンカーはシンカーと呼ばれる。
 カーブと同じなので、山なりで飛んでくる球が、沈み始める時に体の内側ではなく、投手の体の外側の方に曲がっていく。カーブの様に斜め45度ではなく、縦カーブ寄りになる。
 球速はカーブやシンカーよりさらに遅く、直球より30km程遅くなる。
フォーク
 ピースサインを作り、そのピースでボールを挟んで投げる。ほぼ無回転になるため、バッターの手前で球速に減速してストンと落下する。指にさえ挟めれば誰でも簡単に投げられ、また球速がストレートより10km程遅くなるだけで非常に見分けがつきにくいので、1990年代から日本で非常に流行している。但し、肘投げになるため、非常に肘を壊しやすい。アメリカでは80年代に流行ったが、肘を壊しやすいと言うことで投げる投手が急激に減った。
 すっぽ抜けることが多く、しかもど真ん中の落ちない棒球になるため、リスクはかなり高い。
スプリッターorスピリット・フィンガー・ファーストボール(SFF)
 ピースサインの指の間にボールを入れるのではなく、その2本で上からボールを抑えて投げる球種。フォークより落ちないが、スピードは速い。また、落下もストンと落ちるのではなく、徐々に落ちていく感じに近い。フォークは指が短いと投げられないが、スプリッターは基本的に誰でも投げられる。肘への負担もフォークよりは軽い。
 メジャーでは普通のフォークも含めてスプリッターと呼ぶ。メジャーでも深く挟む人はいるが、日本の様にボールの中央を2本の指で挟むような人はいない。深く挟めば挟む程、よく落ちるようになるので使い分ける人もいる。
チェンジアップ
 ストレートと同じ握りで、しかし人差し指と中指の先をボールから離し、指の腹で球を抑えて投げる。すると、バックスピンがかからないのでキャッチボールをするかのような抜いた球になる。
 この変化球自体は大した球ではないが、ストレートと全く同じフォームで投げられるので、バッターのタイミングを外す球になる。
 人によっては大きく沈むので、フォーク代わりに使う人もいる。しかし、そもそも落ちる球なのではなく、ただ単に届かずに落下するのがたまたまキャッチャーの足元だというラッキーな変化球ということになる。力の加減を練習すれば、ちょうど落ちるように投げることも可能だろう。たまたま投げてみたらそうなるという人はいますぐ実戦で使うべきだ。
 但し、フォークと違ってストレートと見間違える人はいないで、見逃されてボールになってしまうとフォークと違って全く意味がない。逆に落ちないチェンジアップは見逃せばストライクなので、無理に打とうとしてバランスを崩して転びそうになるバッターは度々メジャーの中継ではお目にかかる。
ナックルチェンジ
 ボールをつかんで投げるチェンジアップ。不規則な回転がかかるため、右か左にランダムに流れていく。また、そもそもキャッチャーまで届かないので沈む球になる。欠点としては、フォームがストレートと変わってしまうのでプロレベルでは見分けがつくと言うことだ。
 ちなみに阪神の藪が開発した『パックル』(パームとナックルの合いの子らしい)は多分これのことである。
サークルチェンジ
 親指と人差し指で円を作ってボールの横に添え、残り3本の指でボールを上から抑えて投げる球種。これもそもそもキャッチャーまで届かないので沈む球になる上、利き手の外側に流れていく。
 握りは難しくないが、キャッチャーに届くようにするにはかなりの鍛錬が必要である。
ナックル
 ボールをつかんで投げるのだが、その時に指を立てる。若しくは完全に第一関節を曲げて爪の表でボールを抑えて投げる。これによりほぼ無回転の球となるため、空気抵抗によって不規則に変化する。スピード的にはチェンジアップと同じぐらいで、左右どちらかに流れる。さらにゆらゆらと揺れる球になる。
 ナックルボーラーは、この打ちにくいナックルだけを投げる投手を指す。まるでキャッチボールのように緩い球を投げるため、スピードはさらに遅く100キロを割る。キャッチャーまで届くように少し高く放り投げるので、スローカーブと同じ原理で落差が大きい分、変化がさらに激しくなる。ちなみに力を抜いて投げるので、ナックルボーラーは中三日とかで先発してしまうことが多い。
パーム
 パームもボールをつかんで投げる変化球だが、この時の握りは指先を浮かす。つまり、第2関節でボールを抑える。分類すると次の様になる。
ナックルチェンジ→普通にボールをつかむ
ナックル→指や爪を立ててボールをつかむ
パーム→指先を浮かせて指の腹でボールをつかむ
 では、パームはどのように変化するかというと、チェンジアップよりもさらに緩い球になる。スローカーブ並のスピードになる。落ちる球なので、昔は結構投げる投手がいたのだが、投げた瞬間から落ち始める球な為、フォーク全盛の現在では投げる投手は激減している。フォークでボールを挟めない人がトライする、というよな感じになっている。


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