トタ研・マニアックス
21. 天才打者の目覚め 2005.10.29
 ホワイトソックスの世界一で2005年のシーズンは終わった。正直、プ レーオフに出たチームの中では、パドレスについで弱いチームだろう。三本柱の先発はいても、抑えは不在。スモールベースボールという格好いい言葉を使って も、結局は強打者がいないわけである。実際、リーグ屈指の強打を誇るエンゼルスの方が盗塁数が多い。一二番が出て走って、クリーンナップが返すのが理想の 野球だ。
 そんな中で、ホワイトソックス打線を支えたのは、二番・井口だった。シーズン前、ギーエン監督が井口二番を口にした時、私は絶対に失敗すると思った者 だ。
 井口は青学から逆指名でダイエーへと入団した。攻走守揃った超大物の大学野手で、その期待度は高橋由伸や福留より上の選手だったように記憶している。し かし、入団してからは一軍こそ死守するものの、活躍したとは言い難い成績だった。.250に10本程度。そしてエラーボロボロという感じである。ちょうど 星野政権になる前の今岡ぐらいの成績だった。それが好転したのは、ショートからセカンドにコンバートされてからだった(それも今岡とだぶるが)。エラー自 体は余り減らなかったが、セカンドの方が一塁に近い分、送球に不安のある選手には向いている。打撃と走塁も良くなり、30本前後を打てる上に盗塁王という 選手になった。打率だけは低かったが、ここ数年は三割を打てるようにもなった。しかし、四球が少なく、出塁率は打率より多少上がる程度で、個人的にはいい 選手だとは全く思っていない。それでなんだか裏約束とかで、逆指名で入っておきながら、自由契約になってメジャーにいったわけだから、いいイメージなんか あるわけもない。メジャーでも、実際どこの球団も年俸5000万から一億のメジャー保証のない契約しか提示しなかったようだ。そんな中、どうしても二塁手 の欲しかったホワイトソックスが最後まで交渉の席に残り、最終的にはホワイトソックス側が少し奮発してメジャーの一般選手並の年俸を出すことで入団が決 まった。井口側はもっと強豪に入団したかったし、ホワイトソックスもやや無駄遣いしたかなという感じが首脳陣のコメントからは感じられた。
 そして残った成績は、良くもなければ悪くもなく、と言った感じだ。打率もホームラン数も盗塁もそこそこで、エラーも相変わらず多い。そして四球も少ない から出塁率も.342しかない。それでもこれだけ評価されているのは、二番という難しい打順を、それまでクリーンナップを打っていた選手が、初めてメ ジャーの舞台に挑んだ選手が一年間無事に勤め上げたからであろう。実際、ギーエンがスモールベースボールをやる中で、一番には二年連続盗塁王のポドセド ニックを手に入れた。あとは余り強くないクリーンナップにきちんと回せ、2アウトなら3番の代わりも務められる二番打者が必要だった。そこで長打と足のあ る井口は、ちょうどセカンドのレギュラーがいないこともあり、ギーエン監督が熱望してホワイトソックスのフロントも重い腰を上げたわけであるが、かくいう ギーエンも必ず成功するとは思っていなかったはずだ。
 しかし、大きなスランプになることもなく、そして文句も言うこともなく、無難に二番を勤め上げた井口に、監督やチームメイトは賛辞を惜しまない。そして 訪れたワールドシリーズ制覇は、かのブラックソックス事件以来のこととなった。後世に語られることになるであろうこの優勝のキーマンの一人に、間違いなく 井口は数えられる。それは天才打者だった男が初めて見せた、泥臭い一年間に対する結果であったともいえよう。
 もう一度書くが、私は井口がよいバッターだとは微塵も思っていない。しかし、今年一年の井口は、自己犠牲を示した、見事な一年だったと言えるであろう。 来年は是非三番を打って、その自己犠牲の心を忘れずにやってもらいたいものである。

20.松井の四番 2004.11.2
 三連敗から、まさかの四連勝でレッドソックスがヤンキースを破り、その 勢いのままにスーパースター軍団、カーディナルスを四タテ、バンビーノの呪いを見事打ち破った。
 今年のヤンキースは、正直近年に無く弱かった。地区優勝したのが奇跡に さえ思える。三割バッターが一人もいない。セカンドは結局最後まで守備固めのはずの選手で押し通した。一塁手もジアンビが故障後、オルルドやクラークな ど、他のチームをお払い箱になったベテランを併用するという有様。さらに投手陣に目を向けると、救援陣こそ強力だが、先発は最後までローテーションが固定 されなかった。本当によく優勝したものである。そして、実はそのボロボロぶりが松井四番を生み出したのである。
 九月に入ってもオーダーが固まらないヤンキース。トーリ監督は最後の手 段として、「調子のいい選手を足の速い順番に一番から並べる」という最後の手段に出た。私もゲームの采配時によくやるが、打線はその名の通り線として繋が らなかったら意味がない。本来は一番から八番まで、打力を考えて満遍なく配置するのが理想だが、そうも言っていられない時は、調子がいい選手を一番から並 べる。そうすると下位打線は死んでしまうが、取り敢えず上位打線で点は取れるようになる。
 ヤンキースは、一、二番を固定できずにいた。ジーターは一番も二番も出 来るが、ジーターを二番に置いたとして、一番で出塁率を稼げる選手がいなかった。ジーターを一番に置くとして、二番でチームバッティングが出来る選手がい なかった。松井が出来るのだが、彼は何故か二番だと結果を出せないでいた。
 そして、三番アレックス、四番シェフィールドに続く選手がいなかった。 トーリ監督は、メジャーではパワーヒッターではなくクラッチヒッターである松井を、七番で置くことにこだわりがあるようだ。昔、長嶋が清水や元木を七番に 置いてクリーンナップで溜まった選手を返す役目の重要性を盛んに説いていたが、確かにそれは一理あるのだが、だからといって5番や6番にどうでもいい選手 がいてもと思うのだが、しかしトーリ監督も、今年は松井を下位のクリーンナップにすることにかなり最後までこだわっていた。私は五月の段階で、松井は五番 でいいのではと思ったのだが、九月に入って優勝が怪しくなってから、ようやくトーリ監督は拘りを捨てて、実を取った打線に組み替えた。それが一番ジーター 二番アレックス三番シェフィールド四番松井である。アレックスはチームバッティングは出来ないが、マリナーズ時代はグリフィーが移籍した最後の一年間だけ 三番で、あとは二番を打っていた。役割としては二番が無くていきな三番という形である。なので松井の役割は実は五番であり、それが本人の『四番目です』と いう発言にも繋がっているのだろう。トーリ監督は四番としてはシェフィールドを完全に信頼していたし、彼もそれまで充分その役割を果たしていた。三番に繰 り上がったのも、役割としては四番のままである。
 しかし、緊急処置だったはずのその打線が余りにも機能したため、トーリ 監督は最初の一週間こそいろいろいじくったものの、その後は一番から四番まではほぼ固定してシーズン、さらにはプレーオフも乗り切った。松井も四番に入っ てからますます打撃が冴えた。やはり粋に感じていたのだろう。
 そして、シーズン後のトーリ監督は、来年に向けたコメントとして、「来 年はジアンビと松井で四番を争ってもらいたい」とコメントした。これは、松井を四番として認めた発言である。
 一番バッターを補強できれば、当然打順がずれるから、シェフィールドが 四番になるだろうが、それでも松井が七番に下がることはなく、恐らく五番にすわるだろう。例えそうなってもシーズンは長いから、1/3ぐらいは四番にすわ ると思う。ジアンビもアスレチックス時代は松井もシェフィールドも目じゃないぐらい凄い選手だったが、ヤンキースに来て二年は不振、今年は病気であり、来 年復活するとは考えにくい。そう考えると、松井のクリーンナップはかなり固い感じがする。
 現実としてそうなった時、私は松井は今年以上にホームランを打つのでは と考える。来年は40HRはいけるのではないか。一年を通してクリーンナップを守り通した時、それは見えてくるだろう。

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19.天才の証明 2004.10.26
 2004年の日本シリーズは、中日を破った西武の日本一で終わった。プ レーオフで二位だった西武の優勝だが、正直な話、中日の方が戦力的には上だったように思う。今年の西武は西口と石井貴の故障で松坂以外にまともな先発はお らず、それを豊富な救援陣で凌いだが、中日はそれに負けない救援陣に加えて、川上・山本・ドミンゴという三本柱があった。打撃はフェルナンデス・カブレ ラ・和田と揃えた西武のクリーンナップの方が破壊力こそあったが、荒木・井端・立浪・アレックス・谷繁の打線は俗に言うマシンガン打線で大きく劣るわけで はなく、そして守備力は中日の方が遙かに上だろう。福留が故障でいないとしても、正直中日の方が僅かに上だろう。だからこそ、4勝3敗までもつれたと言え る。
 では、何故戦力に勝る中日が負けたのか。それは『試合を落とした』から だと言える。中日の三勝は、勝つべくして勝った三勝である。それに対し、西武は四勝のうち、勝つべくして勝ったのは2勝で、残り2勝は勝ちを拾った…逆に 言えば中日が勝ちを落としたと言える。

 まずは、日本シリーズを見ていれば誰もがわかるだろう、第三戦の 岡本続投である。岡本の続投でカブレラに満塁本塁打を浴びた。あそこを投手を代えて勝っていたら、そのまま四勝1敗だった可能性はかなり高い。そしてもう 一つが、第七戦での山井の投入。変わりばなにカブレラに2ランを浴びた時点で第七戦は99%終わった。第四戦で見事な投球で西武打線を抑えた山井だが、た だはじめて見るスライダーの軌道に西武打線がとまどっただけで、一度見たカブレラはそのスライダーを(決して甘い球ではなかったが)見事に打ち砕いた。あ そこでこそ、岡本を投入すべきだった。
 マウンドに向かった落合監督の、勘が働いての岡本続投。オレ流采配と は、天才打者である落合監督の嗅覚(わかりやすく言えば勘)による、セオリー通りではない采配である。セオリー通りに行動するのならば、天才ではない。一 般常識を越えた行動により、常識を越えた結果を残すのが天才なのである。
 しかし、そんな落合でも四割は打てなかったのだから、必ず成功するわけ ではない。それが短期決戦で大きな仇となった。今年の開幕投手は川崎だった。見事に失敗している。140試合の最初だったから取り返せた。たった7戦で は、失敗したら取り返せない。思い起こせば一昨年、西武が日本シリーズに出場した時、当時の伊原監督は第一戦で松坂6番という奇策を打って大失敗、そのま ま取り戻せずに四連敗で終えた。落合は第四戦の山井先発で(それも奇策ではあった)流れを取り戻して岡本続投の失敗を取り戻したが、最後の第七戦は、正直 今年の中日のゲームで、最も最悪な展開だったと言えるのではないだろうか。エラーやボークなど、最後の最後で、最悪の試合を見せた中日。それを防ぐため に、落合でも岡本でもなく山井を選んで傷を広げてしまった落合監督。奇策とは、成功すれば策士と称えられ、失敗すればボロクソに言われる。
 ゆうきまさみの言葉を引用すれば、『天才は説明のつかない勝ち方をする が、説明のつかない負け方もする』ものである。そもそもあんな大事な第七戦でノミの心臓のドミンゴを使うのが私には理解できないのだが、最後の試合でも奇 策を打った落合の度胸は、ある意味天才の証明だったのかもしれない。


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18.松井の一年 2003.11.19
 マーリンズの優勝で終わったメジャーリーグは、既にポストシーズンに 入って熱く動き出している。リトル松井こと松井稼頭男の争奪戦も始まっている。ここで松井の再評価をしてみよう。
 最終成績は.287・16本・106打点である。4月のコラムで30本 打てるだろうと書いたが、五月と八月の不振が響いて16本に終わっている。それが無ければ30本打てたろうが、松井は巨人でもパッタリ打てなくなる癖が あった事を考えると、来年も20本半ばがいいところなのでないだろうか。ただ、4月のコラムに書いた通り、100打点であの守備なら、クラッチヒッターと してメジャーを代表する打者になれるだろう。
 が、もし逆を考えてみて欲しい。アメリカで50本打ったバッターが、日 本で13本だったら、下手をすれば夏前に解雇されていただろう。それを考えると、外国人選手も一年使っただけではやはりなんとも言えないのではないかと言 う気がしてくる。そして松井がそんなに酷評されなかったのは、単純な言葉だが人柄なのだろう。思えば巨人ファンも移籍した松井の事を余り責めなかった。正 直日本のメディアやファンが松井の移籍にここまで温かいとは予想外だった。そしてアメリカでも多少は叩かれたが、成績から言えばもっと叩かれてもいいので はないかと言う気がする。10勝してもあれだけボロカスに言われた伊良部とは雲泥の差である。
 それはやはり、マスコミに対してどんな時も取材拒否をせずきちんと答え ているからだろう。よく日本に来た外国の選手がマスコミをきちんと相手にしないことをニュースで見れるかもしれないが、実は彼らは日本に来たからああして いるのではなく、母国でもマスコミの相手をしない事は多々あるのだ。
 しかし、私はやはり松井の成績に対しては不満がある。来年は最低でも 30本は打ってもらいたい。それが日本のホームランキングとしての務めだろう。

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17.城島を評価しない理由 2003.10.19
 いよいよ2003年の日本シリーズが開幕したわけだが、今年は城島と矢 野の捕手対決などと言われているが、城島なんてのはただボールを受けているだけであって司令塔対決などではない。
 コラムで常々触れる通り、私はNHK衛星の野球放送をこよなく愛してい るのだが、巨人戦以外の放送が中心であり、ダイエー戦も度々見ているが、本当に城島のリードは危なっかしくて見ていられない。細かく言うと切りが無いし例 も覚えていないので、二つだけ列挙する。

1.捕手なのに四球を嫌がる
 1-2になったらどんな球を投げるか。勝負に行くのも、ボール球で誘う のもセオリーではあるが、例えばボールになる変化球を投げて相手が見逃し、1-3になったらどうするか。言わなくてもわかるだろうが、バッテリーにとって 1-3が一番つらいカウントである。ストライクを取りに行ったらガツンとやられることしばしばであろう。そうしたらもう四球になってもしょうがないと際ど いところに投げるしかない。
 ところが城島は1-3になると平気でストレートでカウントを取ろうとす る。川相や和田(引退している選手だが他に思い浮かばないので)の様に1-3で必ず待つ選手ならいざ知らず、クリーンナップやストレート一本待ちにしか見 えない外国人にまでそうなのであるからやっていられない。
 1-2から変化球を投げたのなら、そもそも真っ向勝負をしていないのだ からもう一回変化球を投げて歩かせたっていいのだ。それを勝負しているのでは、その前に投げた変化球の意味が無い。四球は出さないほうがいいに決まってい る。コントロールが乱れた四球はピッチャーにとって一番恥じることである。しかし、勝負をかけた上での四球は例え押し出しでも恥じることではない。
 例えば古田は、昔2アウト満塁で高橋由の場面で、ともかく外角の変化球 攻めをした。フルカウントからファールで粘る高橋。それでも外角のボールになる変化球攻めで、最終的に変化球が投げた瞬間にわかるボール球となって押し出 しで点が入った。しかし次の打者(確か川相だった)を仕留めて1点で抑え、結局逆転勝ちしている。そういう全体的な発想が城島には無い。次の打者どころ か、次の球のことも考えておらず、その場でどうストライクを取るかしか考えていないと言われても仕方が無いリードである。
 
2.打者を見ていない
 リードには2種類ある。投手の良さを引き出すリードと、打者の良さを殺 すリードである。だからと言って、ストレートの強い投手なのに、ストレートが好きな打者にストレートを投げたってしょうがない。高めのボール球を振らせた りファールさせたりして追い込んで、その後は変化球で逃げる、若しくはひたすら変化球攻めで追い込み、最後ストレートをボール球で投げて詰まらす…いろい ろ考えようがあるが、城島はそんなのはお構いなしと言った感が否めない。
 あんなにフォークに弱い片岡に、追い込んでから連続でストレートで勝負 を挑んだりとか、ランナーが溜まって明らかに一発長打を狙っている矢野に内角のストレートを投げてみたり。いくら斉藤のストレートのノビが素晴らしいと 言っても、それはないだろうというぐらいの『細心の注意』が払われていないリードである。片岡は結局塁に出した。フォークを投げていれば空振り三振だった ろう。矢野の球はサード正面でゲッツーだったが、それは斉藤の球のキレに助けられただけでしかない。
 よくよく考えれば、今年のダイエーの投手陣は全て本格派であると言って も過言ではない。投手陣はみな城島のリードに助けられたなどといっているが、今年過去の王ダイエーで最強の投手陣となっているのは斉藤・和田・杉内・新垣 ら本格派の力であって、城島は正に『キャッチ&スロー』の捕手である。
 ただ、あれだけ肩が強く、体が丈夫で打撃が出来れば、キャッチ &スローの捕手としては最高だとも言えるわけだが。


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16.コントロール 2003.5.21
 先日、巨人の新外国人のラスの投球を見た。オープン戦では130キロ台 のストレートでボコボコ打たれていた投手だ。そして肩痛で二軍スタートだった。しかし、重症ではなかったので二軍ではすぐに先発に入った。そこではなかな かの成績を残し、一軍に上がって2試合とも無失点だった。ストレートは確かに遅い。中学生並だ。しかし変化球が素晴らしいのだ。オープン戦ではストレート をぽこぽこ打たれていたが、登板2試合目の阪神戦を見る機会があったのだが、ストレートは全くといっていいほど投げていない。スリークォーターよりはやや 下(しかしサイドと言うほどではない)からのスライダーが半分。あとはストレートとチェンジアップである。ストレートは全部見せ球、つまりボールであっ た。今後研究されてどうなるかわからないが…ラスは変化球自体はそんなにキレはない。では何がすごいかというと…コントロールが抜群なのである。
 
 コントロールがいい、と言うと、某番組の9分割されたストライクゾーン の的を当てる、あの能力と思われがちだが、実際にはそれとは違う。そもそもコントロールという言葉は、「コースを狙う能力」である。 
 まず最初の段階として、高めと低め、内角と外角を狙って投げわけられる かというのが最初である。同じく今年中継で見ていたヤクルトの高井は、まずここでつまづいている。ど真ん中なら誰でも投げられる。そこから投げわけなけれ ばいけないのだが、かといって9分割で狙う必要はない。まずは高めと低め、内角と外角を意識して投げわけられれば良い。高井は内角を狙っては打者の腰を引 かせるほどの球、低めを狙えばワンバウンド、高めは古田が立ち上がって捕る・・・という感じで全くストライクゾーンに入らない。高校の時は150キロの球 をど真ん中に投げ、たまに変化球を混ぜてやれば高校生の打者はきりきり舞いだったわけだが、プロではそうはいかない。しかし、高校の時にただ力いっぱい球 を投げていた高井に、プロになってたった3ヶ月でそれをやれという方が無理な話なのである。まずはこのコースを意識して投げて5割以上ストライクゾーンに 入るかが第1段階である。
 この5割と言う数字は低いと思われるかもしれないが、野球は3ストライ ク4ボールのシステムである。つまり7球投げて3球ストライクが入ればいいスポーツなのだ。5割と言うのはそのノルマを越えているわけだ。もちろん、スト ライクが入る確率が高ければ高い程、四球も球数も減るわけだが。
 その次が四隅を狙って投げられるかだ。つまり高低と左右だけを意識する のではなく、両方を意識して投げるわけだ。アウトロー、インハイにずばっとストレートを決められて初めてプロの投手と言える。ドラフト下位の球速が無い投 手が意外とプロで活躍するのは、アマチュアの時からここを狙って投げる能力が身についているからである。無論、150キロでそれが出来れば最高であるが。 ここも5割が最低ラインである。が、プロの選手でも平均的な選手だと、正直ズバッと隅に投げられるのは2、3割の確率である。これに打ち損じも入るのでそ うそう打たれるわけではない。
 ちなみに野球は基本的にこの四隅に向かって投げるスポーツである。ここ に向かって投げて、どれだけの確率で頂点の近くに投げられるかが、プロ野球選手としてのコントロールである。ボールになってもいけないし、逆にストライク でも隅から離れれば離れるほど、ど真ん中に近くなり打者に打たれやすくなる。
 最後にコース能力の3つめが、その四隅を狙った時に、さらに狙ってスト ライクとボールを投げわけられるかだ。よく解説者が言う『ボールの出し入れ』と言う奴である。同じアウトローでも、ストライクとボールを投げ分ける力だ。 最も、プロでもそれが100%出来る投手はそうそういない。しかし、アウトローを狙って投げて、半分ぐらいは大きく外れたり中に入ってしまう投手と、その アウトロー付近に全ての球が集まる投手とでは、実際の対戦では大違いである。
 さらにここに変化球が加わる。変化球の場合はそもそもコースを狙うこと が無い。狙って投げる投手もいるが、実はそれ以前の段階がある。
 変化球のコントロールの場合、まずはどれだけストライクゾーンに入るか だ(笑) 変化球を投げられてもなかなかストライクに入らない投手が多い。変化球はそもそもど真ん中に投げられないわけだから、狙ったところに投げられな くても、ストライクになるだけでも結構通用するわけである。
 そして次の段階が高低と内角・外角…といいたいところだが、これは変化 球によって違う。例えばフォークは高低の概念なんてないからだ。ストライクに入らなくても振らせる球である。カーブは大きく曲がるので、正直ストライク ゾーンに入るかどうかと言う話だけでも充分である。その次のコースを狙うのはなかなか難しい。岡島のカーブなんかはストライクゾーンに入るかどうかだけで 精一杯である(笑) 桑田のようにカーブでアウトローでボールの出し入れをする投手もいるわけだが、それはもう、本当に高等技術である。
 逆にスライダーはストレートに近い投げわけが可能な球だ(高速スライ ダー等は除く)。また、あまり落ちないフォークをストライクの出し入れで使う投手もいる。そういう感じで行くと、コントロールとはおおまかにいって次の様 になる。
・ファーストボール(ストレート)
高低or内角・外角の投げわけ→四隅への投げわけ→四隅でのストライクと ボールを使い分け
・カーブ
ストライクに入る確率→内角・外角の投げわけ→ストライクゾーンぎりぎり を狙う能力→ストライグゾーンぎりぎりでストライクとボールを使い分ける能力
・フォーク
内角・外角の投げわけ→ストライクゾーンぎりぎりを狙う能力→ストライグ ゾーンぎりぎりでストライクとボールを使い分ける能力
・スライダーor落ちないフォークor曲がらないカーブ 
内角・外角の投げわけ→アウトロー・インローへの投げわけ→隅でストライ クとボールを使い分ける能力
*変化球の一番最後のレベルをマスターしている投手はプロでもそうそういない

 さて、長い前振りになったが、ラスの話に戻ろう。まずストレート は、狙って内角の見せ球、またはボールのアウトローを投げていた。いくら厳しいコースでも130キロ中盤では簡単に打たれるからだ。狙ってぎりぎりボール になるストレートを投げていた。次にスライダーは、やはりアウトロー、インローでボールの出し入れをしていた。非常にコントロールのレベルが高い投手であ る。さらに注目すべきは失投が全くと言って言い程なかったことだ。
 実はプロでも、例えばカーブを10球投げて10球カーブになるかと言う と、意外とすっぽ抜ける。例えばカーブで芸術的なまでに球の出し入れをする桑田でも失投はする。ラスは失投がほとんどないのである。だからこそ130キロ 中盤のストレートでも通用するわけだ。
 コントロール、そして失投率。この二つにおいて非常に高い能力を持つラ スは、遅い球と余り曲がらない変化球でも、充分プロに通用するわけである。ちなみにパワプロではめちゃめちゃ弱そうでもあるが(笑)。まあ恐らく、スライ ダーが岩瀬並に曲がる設定になっている気がしないでもない。ちなみに余談だが岩瀬のスライダーはめちゃめちゃ曲がるので、上のコントロール段階表では フォークの分類に入るわけだが。


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15.松井のメジャーでの実力 2003.4.29
 松井がヤンキースに移籍して1ヶ月が経った。そこそこの成績を残してい る。ホームランは少なめで、長いスランプが無ければ30前後は打ちそうだ。打率も3割、打点は100は行きそうである。
 ただ、メジャーのホームランのトップは、ここ数年は50を越えている。 そんな中で日本のホームランキングが30前後という数字は少し寂しく感じる人も多いだろう。
 しかし、私はそれとは違う感想を、ヤンキース戦の中継を見ながら覚え た。それは、「松井ってこんなに器用だったのか!?」ということである。
  日本で、巨人で4番を打っていた松井は、ともかくホームランを狙って いる打者だった。そういう意味では引っ張り専門の打者だった。それで数年、30本台のホームランを記録していた。そのままなら、パワーのあるバッターで終 わっていたが、松井は広角打法にチャレンジした。引っ張り専門では、内角の球はともかく、外角の球はなかなかホームランにしにくい。原監督が現役時代に外 角のカーブに苦労したのは、原も典型的なプルヒッター(引っ張り専門)だったからである。松井は清原のように、外角球を鮮やかにスタンドに運ぶような技術 は身につけられなかったが、外角に逃げた球をライト前にポトリと落とすことが出来るようになって打率を上げた。この技術を身につけなければ松井が首位打者 を取れるなんてことは永久に無かっただろう。ピッチャーに外角に投げるという逃げ道を無くさせた松井は、内角寄りの球をライトスタンドに運び続けて、日本 人としてはロッテ時代の落合以来となるホームラン50本を記録することに成功した。
 松井の広角打法は、あくまでホームランを打つために身につけた、言わば セカンドウェポンだった。しかし、メジャーでヤンキースの五番を務める松井は、逆にその広角打法がメインとなっている。左右に見事に打ち分けて打点を稼ぐ 松井。日本の時には空振りしたり、見逃していたりしていた球を見事なまでに打ち返している。
 結局、ホームランを打とうとしたら、ある程度球は絞らざるを得ない。日 本の松井は難しい球を打つ技術が無かったのではなく、ファンの為ホームランを打つ為に、甘い球を辛抱強く待っていただけなのかもしれない。
 メジャーで50本打つバッターは、そのほとんどがプルヒッターである。 ソーサもジアンビもグリフィーも、引退したマグワイアも。バリー・ボンズは若い頃は首位打者を狙うような広角ヒッターだったが、ここ近年のホームラン量産 はほとんどが引っ張りである。昨年首位打者に輝いたのは、ピッチャーが外角に逃げるので、それを逆らわらずに流し打っていた結果である。
 しかし、上に上げたホームランバッターたちは、そのほとんどが3番バッ ターである。では、4番バッターはどんな選手なのか。ヤンキースのバーニー・ウィリアムスも、マリナーズのエドガー・マルティネスも、今年アストロズに移 籍してしまったが長くボンズの後ろを打ったジェフ・ケントも、ホームランは20〜30本である。しかし、打率3割で打点は100以上。つまり、広角バッ ターなのである。それがメジャーでクラッチヒッターと呼ばれる役割である。松井は、パワーは確かにメジャーのトップクラスと比べた時には少し見劣りするの かもしれない。しかし、その技術力は、日本にいる時は下手糞に見えたバッティングが、実はメジャーに行くとトップクラスのバッティング技術を持っていたと いうことになる。
 メジャーで、松井のホームランは30本前後かもしれない。しかし、打率 は3割3分ぐらい打ち、打点は100を越え、ホームランバッターではなく、クラッチヒッターと呼ばれるようになる日は、すぐそこまで来ているのかもしれな い。

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14.オープン戦で 2003.3.16
 今回は意見があるというよりも、本当にただのコラム…感想文であるとい うことをはじめにお断りしておく。
 それはNHKの深夜放送だった。マリナーズVSパドレスのオープン戦を 放送していた。無論主力は余り出ていない…イチローさえも。後日、メルビン監督は「あらかじめ言ってくれれば、出場するように調整したのに…」と言ったと か。両チームとも主力半分で、アナウンサーと解説も、話すことが無く困っているようだった。
 先発はベテラン左腕、モイヤーだった。三回を投げ終わって交代する。交 代の投手。私は思わず、目を丸くしてしまった。アナウンサーも、解説も、誰だかよくわからずに適当に言葉を濁していた。しかし、私はその投手を知ってい た。そして、NHKの人間が彼を知らないのも無理は無い。
 私がマリナーズのファンになったのは、1997年である。任天堂の MLBのゲームを買ってから、であるからその年で間違いない。佐々木が来るのは2000年、イチローはその翌年である。つまり、私はNHKの人間よりも、 三年分選手を知っている。その日先発したのは、ケン・クラウド…1997年のローテーション投手である。
 その当時、マリナーズは強打のチームだった。ただ、先発は足りず、モイ ヤーが5回で降板して中三日で回る、なんてどうしようもないことをピネラ前監督がやっていたぐらいである。マック鈴木がローテに入れたのは、そこまで投手 が酷かったからだ。そして、そのマックのライバルであったのがケン・クラウドだ。ストレートは早くて威力がある。しかし、変化球が無く、リリーフならとも かく、先発としては厳しい感じだった。しかし、マックとクラウド、この二人は次代のマリナーズのエース候補として、期待していた。
 しかし、マック鈴木はマイナー拒否権を持つ年数を過ぎたので、マイナー に落とそうとして他のチームに取られるのを恐れてマリナーズはトレードしてしまった。実際、トレード相手のメッツは、その年ボコボコの成績だったマックを メジャー契約で取るチームなんて無いだろうと、獲得してすぐマイナーに落とす手続きを取ったが、ロイヤルズが手を挙げたので、マリナーズ以上にチームがボ コボコなロイヤルズで先発になるわけである。
 そしてケン・クラウドは、肩を痛めて故障者リストに入り、その後全く消 えてしまった。
 あれからもう、6年経った。当時からマリナーズにいるのは、モイヤーと エドガー・マルティネス、それにダン・ウィルソンだけになってしまった。そのグラウンドに、ケン・クラウドが立っていた。私はてっきり、とっくに解雇され たものだと思っていた。相変わらず力任せの、ストレートだけのピッチング。しかし、今年のマリナーズは先発が足りない。そういう意味では、クラウドには大 きなチャンスだろう。当時のキングドームから、球場は広いセーフィコ・フィールドに変わり、打つだけで守りの弱いチームから、ゴールデンクラブ選手が5人 いるという堅いチームに生まれ変わっていた。
 やっぱりストレートだけじゃつらいよなあとは思う。もしかしたらこのコ ラムを書いているこの時間、とっくにマイナーに落とされているかもしれない。それでもやはり、頑張って欲しいと思わずにいられない。「佐々木やイチローが いるからマリナーズファン? 違うよ。だって、あのケン・クラウドが故障する前に先発で投げてるの、俺テレビで見てたんだから…」そんなことを言えるぐら いに、活躍して欲しいと、ファンとして願うのである。

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13.田口と新庄の運命を分けたもの  2003.2.17
 すっかり話題にならないが、カージナルスに移籍した田口は、今年もマイ ナーで喘ぐことになるだろう。それは彼に力が無いからなのか? 私はそうは思わない。新庄よりよっぽど力は上だと思う。しかし、何故新庄は2年間、準レ ギュラーで、新庄より上の田口がマイナーなのか。
 それはチーム状況である。新庄がメッツと契約できたのは、当時のメッツ はFA戦略に大失敗し、外野陣がボロボロだったのである。事実、3番ピアザの後を打つ選手がおらず、4番が新庄、5番が元阪神のジョンソン(日本で 20HR)などという32球団中最悪と言っていい、悲惨なクリーンナップだった。
 そして翌2002年、メッツは大補強を行う。盗塁王候補のセデーニョ、 30HRのバーニッツと二人の大物外野手を獲得した。当然、それまでのヘボヘボ外野手は邪魔になり、新庄を初めとした外野手はほとんど放出されてしまっ た。
 しかし、新庄の移籍したジャイアンツがまた良かった。レフトにバリー・ ボンズ、ライトがレジー・サンダース。二人とも強打の外野手だが、守備はイマイチだ。いや、二人とも肩も足も強いのだが、40歳目前で外野を走り回るのは 体力的につらいのである。そしてセンターは余りいい選手がいなかった。さらにジャイアンツは余り資金が無い。打てて守れるセンターはつれてこないので、打 てないけどセンターの守備力だけならメジャーでもトップクラス、年棒的には一億円の新庄を獲得したわけである。事実、ボンズは「もう左中間の球は全て新庄 に任せるから取りに行かないよ」と言う程喜んだらしい。実際新庄はセンターのレギュラーとして活躍した。ただ、メッツ時代以上に打てなかったので、プレー オフ進出がかかった後半戦はチームが予算オーバーながらもケニー・ロフトンを獲得した為控えになってしまったが。
 そして昨オフ、ロフトンを獲得したことにすっかり拗ねてしまった(笑) 新庄はジャイアンツとの再契約を拒み、メッツと契約した。メッツは前述した二人の大物外野手が揃って不調だったため、二人とも放出する予定で(まだ決まっ てはいない)、代わりにレフトにフロイド、投手にグラビンと獲得したので予算が余り無く、センターを守れる選手と言うことで新庄を獲得したわけである。
 それに対して田口はどうか。昨シーズン開始時の状況は、センターには ゴールデンクラブの常連にして強打のジム・エドモンズがいる。そしてライトはこれも強打の若手選手、ドリューがいる。レフトしか空いていなかった。しか も、ジャイアンツとは逆で、センターが名手なのでレフトは守備より打力が求められていた。その上チームはトレード期限ギリギリで、フィリーズから現在最高 の三塁手といわれるスコット・ローレンを獲得した。元々サードには昨年の新人王にして、現在はあのマグワイアの後を継いで4番を打つプホルスがいるのに、 である。ただ、プホルスは足は速いが守備は下手だった。ファーストには3割30本のティノ・マルティネスがいる。プホルスはレフトにコンバートされた。日 本で言えば左から清水・松井・高橋と並んでいるようなものだ。彼らが怪我でもしない限り、田口には出番は無い。昨年メジャーに上がった時もエドモンズが軽 い怪我をした時だけだった。代打を出来る打力は無いからで、いくら守備が上手い田口でも、実際、監督も使い道が無いだろう。私が思うに、田口こそ昨年の ジャイアンツに相応しい選手だったと思う。守備が上手く、そして一番も打てる人材だったわけであるから。田口は三年契約を結んでいる。条件は阪神の次に良 かった。しかし、入団するチームを間違えた、と言っていいだろう。例えば佐々木はストッパーのいないマリナーズを選んだ。松井もレフトに穴が無ければ、い くら憧れていたとは言えヤンキースは躊躇っただろう。自分で選んだわけではないが、大家は層の厚いレッドソックスでは芽が出ず、移籍したエクスポズではい きなり先発一番手で(笑)最初は苦労したが、使われるうちに開花して今は立派な先発投手になった。日本で言えば、阿部は巨人に入団したからこそ使われて、 使われるうちに鍛えられてまともになった。同じく大学No.1捕手だった高木大成は、伊東に全てが見劣りしたため、結局別ポジションにコンバートされた が、個人的には大成の方がキャッチャーとしては阿部より上だったように思う。
 野球のコラムでサッカーを引き合いに出すのは気が引けるが、中田も最初 に移籍したのがペルージャだからこそ成功したとも言える。本人は最初から、弱小チームのレギュラーで自分の力を見せてから強豪チームにレギュラー保証で移 籍しようと思っていたようだ。
 無論、最初から強いチームに入団たら結果を残せないというわけではない が、田口と新庄の明暗を見ると、チームを選ぶことの必要性を強く感じるのである。

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12.巨人軍はレアル・マドリードに なれ 2002.11.2
 松井のFAによるメジャー移籍が決まった。イチローに続き、セパの最強 打者がメジャーに移籍することとなった。日本の地盤沈下を嘆かれて久しい。
 しかし、それは仕方がないことだろう。それはメジャーの方がレベルが高 いからではない。メジャーの方が年棒が高いからだ。メジャーは少しでも駄目になるとどんなに実績があってもすぐに年棒五千万+インセンティブなどという恐 ろしいところでもあるが、逆に成績を残し続ければ年棒はうなぎ登りである。私は年棒二千万ドル(約二十億円以上))のマニー・ラミレスに、年棒五億円の松 井が劣っているとは思わない。松井も最初の年棒は一千万ドル程度で、三年契約で三年とも素晴らしい成績を残せば、年棒二千万ドルでの契約更新も夢ではない だろう。
 だから結局、この年棒差が埋まらない限りは、日本からメジャーへの選手 流出を止めることはできないだろう。では一体どうすればいいのか。日本はメジャーの3Aになってしまうのだろうか?
 私は、サッカーにヒントがあると思う。サッカー大国ブラジルの代表選手 は、そのほとんどがヨーロッパでプレイしている。しかし、一番最初はブラジルの国内チームに所属していた。そこで活躍して、ヨーロッパのリーグに高い移籍 金で売られるわけである。
 私は、日本のプロ野球が生き残るためにはこの方法しかないと思う。松井 の移籍も巨人にはまったく資金が入らない。仮にポスティングシステムではなく、サッカーの様に選手がある程度チームを選んで移籍できれば(サッカー選手の 代理人が、移籍希望チームと所属チームとの話をまとめることはよくある)、FA資格を持つ前に選手は移籍できるし、日本球団にも移籍金が入る。選手がメ ジャー移籍を希望して、球団が了承したら、まずは球団同士で移籍金で合意した上で、選手がそのチームへの移籍を了承後、当該球団と交渉して契約を結ぶ。先 に選手とアメリカの球団が交渉して、それから球団同士で移籍金交渉をするという手もあるだろう。松井も希望球団があるからこそFAでの移籍を望んだわけ で、日本球界が潰れないためには、少なくとも手ぶらでメジャーに行かせることはなくさねばならないだろう。
 しかし、いくら資金が入っても、選手がいなくては話にならないという疑 問もあるだろう。事実、オリックスはイチローの移籍金を補強に使った形跡が全くない。そこでこのコラムのタイトル…巨人軍はレアル・マドリードになれ、に 続くわけである。
 サッカーでは、イタリアのセリエAがトップリーグである。多くの有望な 選手がここに集まる。リーグ全体のレベルという意味ではプレミアリーグやスペインリーグは半歩譲るのだろうが、しかしマンUやアーセナルなど、セリエAの 強豪チームと互角に渡り合える球団もある。
 そこでレアル・マドリードである。スペインリーグに所属しながら、世界 最強のチームである。面子も、年棒も、成績も全てである。読売巨人軍は、充分野球界のレアル・マドリードになれる素質がある。巨人の総年棒はメジャー球団 でも中央に位置する。主催試合はほとんど満席で、テレビ中継も持っており、資金は豊富だ。レアルと同じような条件が揃っている。
 後は巨人軍が、資金を出し惜しみせず、日本球界、メジャーを厭わず補強 することだろう。メジャーの超一流は難しいかもしれないが、実績のある選手も獲得するべきだ。そして強いチーム、魅力あるチームを作る他ない。欲を言えば 1リーグにして、巨人に対抗できる資金を持つ西武とマッチレースをすると面白いとは思うが、そして次に必要なのが野球版トヨタカップである。ここでメ ジャーのワールドチャンピオンを破ることこそが、巨人軍が、そして日本球界が生き残る唯一の道だろう。メジャーのチャンピオンを破ることが出きれば、アメ リカでのテレビ放送…つまり世界戦略が見えてくる。そこで初めて、日本球界がメジャーと対等か、半歩後ろのスペインリーグorプレミアリーグの状態になれ るのではないだろうか。  
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11.星野伸之という投手 2002.9.14
 星野は、不思議な投手だ。まず、とてもプロとは思えないあの体。ガリガ リである。プロフィールでは74キロである。私より軽い。正直、70キロは切っているだろう。しかし、同じ細身の西武の西口(71キロ)が、体を鞭のよう にしならせて150キロのストレートを投げこむのとは違い、星野のストレートは全盛期でも130キロ中盤、最近では120キロ代も珍しくなかった。カーブ だって下手なピッチャーよりは全然良いが、実はそんなに鋭く曲がるわけではない。ではコントロールが良いのか? 実はそんなことも無い。毎年かなりの数の 四球を出している。正直かなり悪い。球速も無く、コントロールも悪く、変化球もカーブだけ。何故そんな星野が、19年間もプロで活躍し、176勝も挙げる ことが出来たのか?
 まあ、有名なので私が言うまでも無いだろうが、ストレートとカーブの フォームが全く同じだということである。それだけで、120キロのボールに振り遅れ、ストライクになるかボールになるか投げてみないとわからないカーブを 空振りする。そうして積み上げた176勝である。
 毎年、多くの有望な投手がプロ入りする。150キロのストレート、多彩 な変化球…様々な売り文句が飛び交う。それが嘘なのかと言うと、実際にはほとんど事実である。150キロ投手は、実際140キロ後半を投げられるし、多彩 な変化球を投げられる投手も存在する。では、多くの投手が消えていってしまうのは何故か?
 それがまさにフォームなのである。150キロのストレートでも、スト レートが来るとわかっていて打つのなら、ストレートとカーブ、どちら来るのかわからない状態で120キロのストレートが来るよりも遥かに打ちやすいのであ る。そういう速球派投手は、変化球とのフォーム差をなくそうとしてフォーム改造をして、ストレートの球速がどんどん落ちてくる。それでも癖を無くし切れず に打たれてしまう投手は多々にいる。アマチュアでは、150キロの球を投げていればほとんど打たれない。たまに変化球を織り交ぜるだけで打者はキリキリ舞 である。プロではその球について来る。完璧に癖をなくせる投手はほとんどいないが、少なくとも初動で球種がばれたり、目立つ癖がある投手は、どんなに速い 球を投げたとしてもプロでは通用しないわけである。
 変化球投手の場合はもっと悲惨だ。例えばカーブ・スライダー・フォーク と投げれるピッチャーは、ストレートと合わせてフォームが4つあるわけである。元々ストレートは余り早くない。フォームを修正するうちにストレートのス ピードはどんどん落ちていくし、4つの球のフォームを統一するのは至難の技である。そしてフォーム変更でドツボにはまっていく。
 また、日本に来る外国人投手のほとんどが、ストレートと変化球のフォー ムが違い過ぎて、キャンプからフォーム矯正、結局一軍に上がることもなく帰国していく投手が実に多い。
 
 そこからすると、ストレートとカーブのフォームが全く同じだと言う星野 は、ほとんど奇跡の存在だとも言える。しかもリリース(握り)が頭の真裏に隠れて、話す瞬間までほとんど球が見えない。なのでリリースのタイミングがわか らず、さらにタイミングが取れないし、握りがわからないから本当に投げてくれるまで球種の判別が全く不明なのである。もはや、こんな投手は出てこないだろ う。石井一久の方が、凄いストレートを投げる。今中の方が、凄いカーブを投げる。野口のスライダーは恐ろしい曲がり方だ。
 それでも私は、きっとこれから、「今までで1番凄いと思う左投手は?」 と聞かれたら、迷いなく「星野伸之」と答えることだろう。ゲームをやる時は間違いなく獲得していた投手である。御苦労様でありました。

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10.広島が弱いワケ 2002.8.15
 広島カープは、本来なら凄い強いはずである。佐々岡、黒田、高橋、長谷 川の先発陣はリーグ屈指だし、小山田と言うストッパー、さらに待望の中継ぎ左腕の菊地原まで出来た。しかも打線は金本・ディアス・ロペス・新井と狭い広島 球場の恩恵をもろに受ける強力打線である。東出・木村拓というスピードのある選手も揃い、また前田・緒方・野村と言ったここ数年故障がちだったベテラン も、全盛期の力は無いとはいえ、立派に戦力として働いている。
 なのに借金生活だ。どう考えても阪神やヤクルトより強い戦力のはずなの にである。数値的にはエラーが多い、というのはある。そんな私の疑問を解決してくれるシーンがテレビで放映された。
 東京ドームでの巨人-広島線であった。6回裏同点で2アウト。ランナー は二塁三塁。ここでバッターは8番の川中であった。ここで広島の長谷川と倉のバッテリーは川中にタイムリーを打たれて一点を勝ち越されてしまう。
 何故投手勝負ではないのか。もちろん、投手にだって打たれることはあ る。が、2アウトならば野手との勝負は避けるべきだ。事実バッテリーもくさいところを攻めていたので2−3となった。そこで最後の球はフォークがすっぽ抜 けていた。どうしてそういう大事な場面でフォークがすっぽ抜けるのか。もっと言えば2−3になったところであきらめてもよかったはずだ。
 しかし、私が目を疑う光景はその後も続いた。ランナー1塁3塁。バッ ターは投手の上原。ここで一塁ランナーの川中が二塁に盗塁したのだが、なんと捕手の倉が二塁へと送球したのだ。
 一塁三塁でのスチールは、普通は球を投げない。三塁ランナーがダブルス チールでホームを狙うこともあるし、もしエラーになれば三塁ランナーが得点してしまうからだ。無論、万事が全て、投げなくていいというわけではないが、状 況は2アウトで打者は投手である。盗塁させたって上原さえ抑えればそれでこの回は終わりなのである。
 そして案の定、倉の球はショート東出の遥か横に逸れてセンターに飛んで いった。そしてエラーで一点が入ったわけである。
 要するに、広島は野球がわかっていないのだ。もっと言えば戦略が草野球 レベルだということなのだろう。そんなチームでは、いくら凄い打者と投手が揃っているところで優勝出来るわけが無いということだ。エラーの多さも、このよ うなところに通じるのだろう。

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9.NHKの巨人戦中継を見た。 2002.5.1
 私はNHKのスポーツ中継が好きだ。静かで理知的なアナウンサーが何よ りも好感が持てる。解説陣もまともな人間が多い。そして試合終了までの放送。一般の人々にも、1998年に日本戦を全戦放映したワールドカップでその作り に感心した人も多いだろう。
 さて、そんなNHKが東京ドームの巨人戦を今年から数試合、放送するこ とになった。今までも巨人がビジターの時などに放送していたので内容的には別にすごいというわけではない。しかし、その記念すべき?第一回の放送を見るこ とが出来た。
 なんと、長嶋茂雄が解説しているではないか。当然彼はNHKの解説者で はないが、今の立場は巨人軍の取締役なので、別に日本テレビでなくても出演できるわけである。その内容がまた凄かった。
 しゃべりっぱなしなのである。まったく止まらない。むちゃくちゃな内容 の時もあるし、感心させられる話の時もあるのだが、全く止まらないのである。そして素晴らしいこと?に、アナウンサーが止めないのだ。例えばアウトになる プレーがあっても、民放なら解説者が喋っていても「サードゴロ、アウトです」などと話を入れるのだが、NHKのアナウンサーは話を止めない。無論、それは 今までの放送もそうだったのだが、他の解説者はそういう時は意図的に話を切るのでそこでアナウンサーが実況するのだが、長嶋さんはおかまいなしに話し続け るので話が終わらないのだ。そしてCMもない。だからチェンジになったら即CMではないので長嶋さんがやはり喋りつづける。その日は上原が好投して九時前 に試合が終わったのだが、まさに長嶋茂雄のトークショーといった雰囲気だった。ある意味非常に面白い内容だったといえるだろう。
 長嶋茂雄の個性が最も生きる中継がNHKだというのも、なんとなく皮肉 な話である。

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8.ユーティリティプレイヤー論 2002.3.27
 またしてもシアトル・マリナーズの話で悪いのだが、このチームにマー ク・マクレモアという選手がいる。37歳のベテランだ。レギュラーではなく、スーパーサブである。しかし37盗塁でリーグ三位である。セカンド・サード・ 外野全てを守った。怪我人が出たり、不調な選手がいるとすぐに彼の出番なのである。イチローの休養した数試合も代わりに一番に入った。足の速さを生かして 守備固めも多かった。まさに10人目のレギュラーだったわけだ。そしてショートのギーエンが肺結核の疑いで離脱すると、なんとプロでは12年ぶりと言う ショートに入って見事に代役をこなしたのである。まさにユーティリティプレイヤーという言葉が相応しい。
 日本でもメジャーでも、足の速い内野手は様々なポジションで使われる傾 向が強い。外野手が内野をすぐ守るのは至難の技だからだ。日本でも元木と川相がレフトにしばしば入る。逆に2人よりも足の速い清水は外野専任である。外野 手は高い身体能力を求められるが、内野手と比べた時難しさで言えば、内野ほどで無いのは事実であろう。マルティネスもヘボヘボでもライトを守った。
 カルロス・ギーエンという選手がいる。前述したマリナーズの選手だ。彼 はアストロズのマイナーで有望株だった。そして、ランディ・ジョンソンとのトレードでマリナーズに移籍した。当時マリナーズはセカンドだけレギュラーがい なかった。よってショートからセカンドにコンバートされたが、翌年開幕ニ試合目にシーズン絶望の大怪我をした。次のシーズン、チームはマクレモアを獲得 し、セカンドに入れたため、ギーエンはサードに回された。しかし、ポロポロとエラーをする為デービット・ベルが主にサードを務め、ギーエンはセカンドと サードのパックアップになった。が、スピードのある彼だが、どちらも守備は正直おぼつかなかった。チームは将来性のある内野手として獲得したはずだから ガッカリしただろう。ジョンソンとのトレードの最大の目玉である彼は芽が出ず、逆に他の二人(ガルシアとハラマ)は見事にローテ入りしていた。 
 その翌年、彼はまたポジションを変わる羽目になる。ショートのアレック ス・ロドリゲスがFA移籍したため、古巣のショートに戻ったのだ。そして1年間、今度こそ彼は見事に務め上げた。ただ、打撃の方はさっぱりで、元々1番か 2番を期待されていたのと比べれば、チームの当初の期待からすればまだまだではあるものの、ショートの守備に関しては今までセカンドやサードでボロボロの 守備を見せていたのが信じられないぐらいである。
 つまり、彼は足の速い内野手ではあるが、ショートしか守れないというこ となる。内野手であればどこでも守れると言うわけではないと言うことだ。例えば広島の東出はセカンドからショートに移ったところ、守備の名手だったはずが 途端にポロポロエラーをし始め、今は堂々たる2年連続の失策王だ。元木や横浜の小川の様にどこでも守れる選手もいるし、石井琢の様にサードから難しい ショートに移って成績を挙げる選手もいる。
 足が速い内野手はとごでも守れるわけではない。とこでも守れる選手とそ うでない選手は厳密に区別して、その選手にあったポジションを発掘する事が大切なのだろう。

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7.打順が選手を作る論 2001.6.28
 シアトル・マリナーズが強い。マジック98が点灯してしまうというどう しようもなさだ。元々投手力がリーグ1のチームだが、グリフィーに続いてロドリゲスまで抜けて今年の優勝は無理だろうというのが大方の予想だった。私もレ ンジャースはともかく、アスレチックスにはかなわないと予想していた。しかしながらのこの快進撃は、リーグ2位という高打率が示している。ホームラン数自 体はやはり少ないが、連打で点を取れているわけである。鉄壁の救援陣とあわせて、98年マシンガン打線と大魔神で優勝した横浜みたいだという人もいる。
イチローが一番打者として大活躍しているのはもちろんだし、それ以外にも ここ数年不調だったオルルドが全盛期並みの3割中盤の打率を残していること、各選手がヒット狙いの為に打率が上がっていることなどがあるが、実はイチロー の加入と同じぐらいの貢献をしている選手がいる。
 今年FAで加入したセカンドのブレッド・ブーンだ。97年のレッズ時代 に、守備率(エラー率。エラー数÷守備機会。)のメジャー過去最高記録を残した名手として知られて、あの王者ブレーブスが20勝左腕のネイグル(現ロッ キーズ)と交換トレードした程の逸材である。
 しかし、打撃の方は正直イマイチである。毎年20HR20盗塁は残す が、打率が250前後なのである。身長が180無い小柄な選手で、20盗塁と広い守備範囲が示すとおりスピードがある。出塁率が3割中盤なら盗塁数は倍に はなるだろう。しかし、ブンブン丸の異名を貰う程の引っ張り専門の大振り選手で、ブレーブスで2番として進塁打を狙うよう指導されたがブンブン丸は治ら ず、ブレーブスはたった一年でパドレスのキルビオ・ベラスとトレードしてしまった。彼は同じセカンドで長打は無いが、40盗塁できるうってつけのイグナイ ター(2番)である。
 ところが、である。今年のブーンは打ちまくっている。打率は3割中盤 で、ホームランも40本ペースである。自己最高は21である。打点も現在トップでこのペースなら150近くは行くだろう。こちらも過去最高は79だ。
 何が変わったのだろうか。打撃フォームなどは特に何も変わっていない。 実は…打順が変わったのである。そう、今年の彼は5番に固定されている。主軸のマルティネスやオルルドが休養の為欠場すると、彼らの代わりに3.4番に繰 り上げされる程である。別にピネラ監督は、彼を5番にしたくてしたわけではない。1番はイチローがいて、2番にはキャメロンの他、マクレモアやハビアーも いた。逆にクリーンナップはイチロー3番構想が出る程人材不足で、3番マルティネス、4番オルルドまでは決まったが5番がいない。よってその他で一番長打 のあるブーンを5番に『仕方なく』繰り上げただけである。しかし彼は打ちまくっている。打順が馬にあった、と簡単に言うことに嫌いを覚える人もいるだろ う。しかし、先発から抑えに回って飛躍する人もいる。有望株でもないのにとあるポジションに抜擢されて飛躍する人もいる。環境が人を作るというのならば、 打順もまた、選手を作るのではないだろうか。ブーンより長打力のある選手はメジャーにいくらでもいる。しかし、ブーンに合った打順はクリーンナップであ り、そこを任せれたことで彼も成果を残したわけである。 
 少し話が逸れるが清原について。松井と清原のどっちが4番なのかという 議論は、当然松井の方が上なのだから松井が四番に決まっている。どんなに優れた選手でも、その個人より上の人間がいたらトップでは無くなるのがプロの世界 だ。それを風格だの何だの言うのは腐ったアマチュアリズムである。
 しかしである。清原という選手が4番という打順で作られているのなら ば、彼は4番を打ってこそ初めて価値が出るということになる。しかし、松井と比べれば当然彼は4番を打てない。ならば、彼は4番という打順を求めるべきだ ろう。それは移籍でもいいし、あくまで巨人に残って松井から4番を奪うという気概でもいいだろう。
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6.オリンピックへオールプロを派遣 すべき 2000.9.30
シドニーオリンピックで日本はメダル無しに終わった。これについていろい ろ意見があるし、また問題はいろいろある。これについて整理をしながら私の意見を述べよう。
まず、メダルが取れなかったのはオールプロで無かったからである。投手力 は問題無い。松坂も黒来も抑えていたし、アマの選手も抑えていた。しかし、打線はまったく点を取れていなかった。例えば新人でも投手はすぐ活躍する場合が 多いのだからプロ・アマ混成でもいいが、打線に関してはプロに入ってすぐ活躍する選手は少ない。やはりプロ選手全員で作られた打線は必要であろう。
つまり、来大会以降プロチームを派遣できないのならメダルを取ることはほ ぼ不可能であろう。
 
さて、そこで本題となるのがオールプロチームを派遣すべきか否か、という ことになる。私は、派遣すべき、ではなく、派遣する必要がある。というふうに思う。
オールプロにするためにはふたつの問題がある。まずひとつめは、それに よってアマが衰退する可能性があると言うことだ。高校・大学はともかく、社会人野球は国際大会にも出られるというのがひとつのステータスになっていた。そ れがなくなると社会人野球は無くなるだろうという見方がある。事実無くなる可能性はある。しかし、メダルを取りたいのならそうなっても仕方ない。国民的関 心の高い野球が、オリンピックでメダルも取れなくていいのだろうかということなのである。それは例え社会人野球が滅ぶことになろうとも、メダルを取りたい のならオールプロチームを派遣するほかにないだろう。 
そしてもうひとつはプロ側の意識である。イチローやセリーグが拒否したよ うにオリンピックに消極的な態度が目立つ。プロ側としてはメジャーとワールドカップ構想を話し合っており、他の場所から出てきたオリンピックにみすみす選 手を出してたまるか、という考えが見え隠れする。事実オリンピックにオールプロが出ればワールドカップ構想の求心力が落ちるのも事実である。
しかし、である。オリンピックそのものが国民の関心を集めている。そして 同じく国民の関心の高い野球がメダルを取り逃がしているのである。当然国民からはオールプロの要望が出るであろう。そしてプロ野球はそれに応える必要があ るのではないだろうか。国内で最もレベルの高い野球を提供しているのが日本プロ野球機構であるのならば、オリンピックという国際的に認知された大会で野球 が競われているのである。それに出場して国民の期待に応える義務がプロ野球界にはあるだろうし、厳しく言えばシドニーでもその意識を当然持ってほしかっ た。パも協力するのなら、日本シリーズまで時間が空きすぎているのだからパリーグだけでも中断してオールパで行くべきだったと私は思う。
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5.FA は選手の正当な権利ではないのか?
今季、広島の江藤が巨人に移籍した。昨季FA権を取得し、複数年契約と再 契約金を球団に求めたが、広島は江藤がFAを行使すること自体を認めなかった。つまり、FAを行使した場合は一切交渉しないというのである。結果江藤は FAを行使、30本を打てるサードという、魅力的な素材に、金銭的な理由であきらめたヤクルトを覗くセの残りの4球団が手を挙げるという、日本のFAで もっとも熾烈な争いとなった。西武も獲得の意向を示していたが新外国人のフェルナンデスがサードのため獲得を見送ったのだから、実に多くの球団が興味を示 したことになる。
さて、その江藤に対してだが、達川監督を始めとして数多くの広島の選手が 敵意を剥き出しのコメントを残した。新人の苫米地でさえ、「もう味方じゃないんだから当ててもいいんでしょ」とわけのわからないコメントを出すほど。どの チームだろうとデットボールを当てていいわけが無かろう!
そして迎えた広島‐巨人のオープン戦では、広島投手は勝負など度外視で江 藤にぶつける球を投げ続けた。さらにシーズン中も、巨人戦の後に達川監督のコメントには「江藤はヘラヘラしおって…許さんぞ」などと支離滅裂なコメントが 多かった。
私は言いたい。FAは、選手の正当な権利ではないのか? 何故それを行使 したことによって非難されなければいけないのか? 例えば、広島ファンが江藤に向かって「裏切り者」というのは、正しい。自分の応援する球団から去ったの だから裏切り者以外の何物でも無い。しかし、選手がそれをいうのは絶対に間違いである。日本ではナベツネの陰謀によって、巨人が選手を取るために導入され たものではあるが、選手会はその何年も前からFAの導入を求め続けたがオーナー側がそれを拒みつづけた経緯がある(ナベツネが巨人のオーナーになって最初 の年にFAは導入された)。不本意な経緯とはいえ、長年要望していたFAがようやく導入されたのである。それを行使して何が悪いのか?
現に日本では移籍金の高さもあるが、FAを宣言する選手は少ない。これは 広島だけでなく、全チームにまだFAの意味がわかっていないのではないということなのではないだろうか。  
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4. 異国の地で
メルビン・バンチは3Aで先発として99年を過ごした。一軍への昇格は無 かったが、期待の若手を途中で引き上げたりせず、一年間きっちりマイナーで鍛錬させるのはメジャーでは珍しくない。勝ち星こそ8勝だが、最優秀防御率を獲 得した。
メジャーでは、3Aで成績を残せば来季はメジャー枠を開けて待っている。 それこそ同じホジションにいるベテランで年棒の高い選手をトレードに出して(無論、そのチームの他のウィークポイントの補強に当てる)その選手を取り敢え ず一年間使ってみる、つまりチャンスを与えるのである。例えばヤンキースの伊良部の放出も昨年3Aでヤーナルという若手投手が大活躍したからである。
バンチの場合も、来年はメジャーでの先発枠を開けてチームが待っているこ とが充分に予想された。なにせ彼の所属するシアトル・マリナーズは打線に反して投手力の弱さは指折りづきだった。先発の数が足りなくてエースを5回で降板 させ、中3日で回すほどだったからである。
しかし、その年のオフはマリナーズを激震が襲った。グリフィーJRが残留 を拒否し、他チームへの移籍が決定したからである。さらにはもう一人、来季オフにFAとなるアレックスとは、取り敢えず来季はマリナーズでプレイすること にはなったものの契約延長は拒否し、彼はFAとなって市場に出ることを希望した。アレックスの場合はチームへの残留に含みはあるものの、一気に二人のスー パースターを失う窮地に球団は追い込まれた。スーパースター無しで人気を維持するためにはどうすればよいのか。それは優勝である。幸いグリフィーの移籍に より資金は充分にあった。打者も補強し、先発に至ってはローテ投手を二人連れてきた。中継ぎも二人つれてきた。メジャーの投手枠は通常10人である。そこ に4人の実績ある投手が来たわけである。バンチの枠は無かった。そして、本来ならそう言う場合は他チームから声がかかるのだが、悲しいかな、彼は既に29 歳。他チームが手を挙げるには年を取りすぎていた。来年の3Aの先発ローテはさらに下から上がってきた投手で埋まっている。こうして彼は太平洋を渡り、中 日ドラゴンズへと移籍することになった。
 
2度目の先発。彼はノーヒット・ノーランを達成した。異国の地のマウンド で彼は何を思っていたのだろうか。先発として育てられていたのに、日本のキャンプではストッパー候補となった。しかし、ここで彼にチャンスが巡ってきた。 川上・武田の故障で先発が足りなくなったのである。バンチは自動的に先発へとスライドした。そして不調のチームの連敗を止める活躍である。意外ではない。 彼は本来なら今頃、メジャーで先発をしていたはずなのだから。
巨人の松井をこう称する人がいる。彼はペタジーニにホームラン王を取られ た。ペタジーニは3Aのホームラン王である。メジャーに上がれなくて日本に来た。そんなペタジーニに負けるのだから松井はメジャーでは通用しないと。
しかし、ペタジーニもただマイナーにいたわけではない。彼の所属したレッ ズの一塁手はショーン・ケーシー。弱冠25年ながら、将来は首位打者間違い無しと言われている逸材である。ポジションも同じなら、ペタジーニと同じ左打ち である。ペタジーニがレッズの前にいたメッツには、打率ランキング10傑常連のジョン・オルルド(現マリナーズ)がいた。彼もまた左打ちであった。一塁手 は守備の下手な他のポジションの選手が回ってくることも多く、どんなに打力があっても一塁しか守れない選手はなかなか上には上がれない。ペタジーニもま た、ある意味傷心で海を渡った。

今年もまた、佐々木が海を渡った。ある意味バンチの放出は彼の獲得 とは無関係ではない。しかし、この異国の地で投げるバンチは、決してメジャーでは通用しないから日本に来たのではない。彼はただ、チャンスを求めて日本に 来たのである。ともすればメジャー賛歌に陥りがちなメディアは多い。しかし、癖やフォーム盗みばかりすると日本を非難して海を渡った佐々木は、その異国の 地で日本以上に緻密な配球研究で打ち崩されている。フォークに手を出さないのもフォームが研究されているからであろう。
多少の風潮の違いがあれど、野球の原理と言うものはどこも変わらない。選 手を育てるもの、それはチャンスを与える、そしてそれをものにするということである。それはたった一度の先発の場合もある。それで人生が変わることもあ る。駒田がプロ初打席で満塁ホームランを打っていなかったら、決して打力があるとは言えない彼がその後クリーンナップを打つなんてことは有り得なかったで あろう。
そうしたチャンスの真剣勝負が、野球の、そしてスポーツの醍醐味と言うこ とになるのだろう。


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3. 先発・中継ぎの分業とニ遊間の固定
広島が首位である。最下位までのゲーム差が少ないのでかなり強いと言うわ けではないのだが、昨年と比べるとチーム力が非常に安定している。その理由はまず先発の固定、そしてそれから来る中継ぎ投手の中継ぎ専念である。
現在先発は佐々岡・ミンチー・黒田・高橋健の4人がほぼ固定されて、曜日 も決まって回っている。佐々岡は金曜、黒田が火曜、高橋が木曜である。ミンチーは中3日で投げていたりするので固定はしていない。
これは2回目のコラムでも書いたことだが、やはり先発の固定というのは チームのバランスや、中継ぎ陣の体力的・精神的に見ても大きいことだろう。また、ニ遊間が木村・東出に固定されている。守備はまだまだ向上の余地がある が、安定している、と言う意味で取れば守備力は昨年より上がっているだろう。そして彼らが1.2番に固定されて活躍している。いくら前田がニ冠王といって も、打点は1.2番が出塁しなければしょうがない。現にヤクルトのペタジーニは打率は3割だが打点は非常に少ない。チームバランスの良さ、これが現在の広 島の強さであると思う。
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2.中日は先発が少ないことが素晴らしいのか?
昨年の中日は投手力でシーズンを押し通した。しかし、よくよく見ると先発 投手は4人しかいなかった。メンバー的にも、巨人が決して劣っているとは思えない。ではどこが違うのか…中日は絶対的な先発が4人いて、彼ら以外は中継ぎ に専念する。先発が4人しかいなければ自然と中5日で回るのが当たり前になるし、先発・中継ぎ陣共に調整がしやすい、ひいては力を発揮できると言うことに なる。それに対し巨人は先発投手だらけだ。数がいるから調子が悪いと次々に入れ替えていく。当然中継ぎは先発を降格した人間だから中継ぎに必要な連投体力 を持っていない。現に桑田が終盤ストッパーをしたりした。広島は先発と中継ぎの区分けがめちゃめちゃである。
例えば阪神の遠山は今年素晴らしい成績を残した。が、彼が先発を出来るか と言われれば出来ない。遠山よりも球威のある投手は巨人にいくらでもいる。でも成績が残せない。岡島・木村が中継ぎに専念してそこそこの成績を残したこと を考えると、やはり役割分担の重要性をひしひしと感じる。
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1. 坪井は三番にすべきではないのか?
今年の阪神はドラフト1位で獲得した的場を一番候補としている。そのため 昨年まで1番を打っていた坪井を2番に予定していると言う。予想される打線はこうだ。

1番ショート的場 2番ライト坪井 三番サード バトル 4番 ファースト大豊 5番レフト タラスコ 6番キャッチャー矢野 7番センター新庄 8番セカンド今岡

しかし、果たして坪井にバントやエンドランをする必要がある二番が 務まるのだろうか? 特に彼は天才タイプだけにある程度は自由に打たすべきである。それに阪神には田中と言う2番には打ってつけの打者がいる。田中こそ2 番セカンドにして固定すべきなのではないのだろうか?
それを考えると、坪井は三番にすべきではないのだろうか? 確かに彼に長 打はないが打率は2年連続で三割を超えている。出塁率も悪くない。内野安打も多いのだが、それはイチローも、古く言えばあの安打製造機・張本も内野安打が 多いことで有名だった。1.2番を的場・田中で固定できるのであれば、坪井を三番にしてスピードのある1〜3番にすべきだと私は思うのだが? 特にクリー ンナップの弱い阪神だから、三番に三割打者を置くことは大きいし、確かに坪井では力不足かもしれないが、取り敢えず阪神には役者がいないのだからそうする しかないと私は思う。


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