19・決戦は金曜日

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「うふふふ…連鎖ですぅ!」
「…偶然じゃん…」
 ゲームキューブでパネルでポンをやる西村。対戦すると手を抜かなければいけないので、倫子は観戦していた。狙って連鎖を組めるはずなど無く、適当にやって発生した連鎖が起きるたびに西村は歓声を上げていた。それを言っても始まらないので言わないが。
 すると池田が黙って入ってきた。そして倫子の隣にすわる。
「なんだ、対戦しないのか?」
「ええ、ちょっとまあ…」
「ふうん…」
 そうすると池田は白衣のポケットから正方形の青い箱を取り出した。パカッと開ける。
「そ、それはもしかして…」
「なんだ、お前の目にはPCエンジンGTにでも見えるのか?」
「ゲームボーイアドバンスSP!? 買ったんですか!?」
「それじゃなきゃなんなんだ…」
「はあ…たった一年で壊れてもいないものなんて買いかえる余裕無いし、それに先月ゲームボーイプレーヤー買ったし…」
 すると池田は画面を見せてきた。カスタムロボだった。
「こ、これは!? ひ、光り輝いている…別のゲーム機みたい…」
「フッ、ただのGBAとは違うのだよ」
「何故シャア口調…いいなあ、欲しい…ん、どうしたんですか?」
 西村の隣、目の前の上岡が黄昏ている。倫子は目を丸くした。
「…先輩?」
「放っておけ。12月にGBA落として壊して買い換えただけの事だ」
「…はあ」
「おいっす!! 今日も元気にやってるか、ガハハ!!」
 佐藤が入ってきた。そして上岡の隣にすわる。
「なんだ、パネポンか。時間でも潰すかな…」
 佐藤も学ランのポケットから物を取り出した。黒の正方形。パカッと開けた。
「そ、それはGBASPの黒!?」
「あ〜…」
「か、上岡先輩が溶け出しているわ…」
 ますます生気の無い顔に変わる上岡。するとそれを見た西村がぴょんと立ち上がった。
「みんなずるいですぅ!! ぴかぴかGBAやるなんて!!」
「そうですよ、上岡先輩の事も考えて…」
「まりあもやるですぅ!!」
「…は?」
 西村はロッカーに走る。鞄の中から白い正方形を取り出して戻ってきた。
「…GBASPのホワイト…全色揃ったわ…」
「部長様、対戦やるですぅ!」
「はん? しょうがないな。星のカービィのレースでもやるか…佐藤、やるぞ」
「今はお兄ちゃんの日だから駄目だ」
「…GBAでまでシスプリですか…」
「じゃあ、倫子と上岡入れ」
「ええっ!?」
「別に普通のもSPも繋がるぞ」
「そうですけれど…」
 そして4人で通信ケーブルを繋いで対戦が始まった。上岡が泣いていたような気がしたが、倫子は見ないことにした。
「さて、充分堪能したな…」
「部長様、次はパネポンやるですぅ!!」
「俺と対戦? 三沢vs小橋戦みたいにボコボコにするぞ?」
「や〜ん、負けないですぅ!!」
「…まりあ先輩、意味わかっているのかしら…」
 池田は立ち上がって自分のロッカーを開けている。そして戻ってきた。
「どうしたんですか?」
「いや、マイコントローラーをな」
「別に変わるもんじゃないのに…って、ええっ!?」
 池田がコントローラーを繋ぎ変える。そして対戦が始まった。
「ぶ、部長。そのコントローラーは?」
「ああ、スーパーファミコン型コントローラーだな」
「そ、そんなものが世の中に…」
「正確にはデジタルコントローラーか。ホリ電器製だからちゃんとしたもんだな」
 確かにパネポンなどをやるには、標準のコントローラーよりずっと良さそうだ。池田と西村のパネポン対決が始まる。池田は手は抜かないが最初からハンデでスピードを速くしていて互角の戦いになっていた。
「さて、一息付くか…」
 池田がコントローラーを置いた。倫子が手を伸ばす。
「見てもいいですか?」
「ああ、いいよ」
 スーファミのコントローラーより少し小さい感じだ。自分の手にはかえってフィットする感じがする。早速ひとプレイしようかと思って顔を上げた。
「…ケーブル抜かれてるし」
 始まったのはソウルキャリバーIIだった。日本では半エロゲーとしても有名だが、欧米では世界最高の格ゲーとして評価されているものでもある。倫子もゲーセンで多少やっていた。
「でも、コントローラーなんかでやるのは耐えられないしなあ…しかし、なんでこんなにガチャガチャうるさいのかしら…」
「…スティック使ってるからだろう」
「あ、神崎先輩。おはようございます。そうか、スティックか…。…スティック!?」
 佐藤を見る。専用のキャリバースティックを使っていた。キャラはナイトメアである。相変わらずゾンビ状態のままの上岡がコントローラーで対戦してボコボコにされていた。ちなみにヴォルドを使っていた。やはり間違っている。
「そ、それは…ずる過ぎる…」
「ギャハハ!! 資本主義こそパワーだ!!」
 上岡が涙目でコントローラーを置いた。誰も取らない。
「どうした、俺様の勝ち逃げか?」
「…いい気になって…」
「はぁい、お元気?」
 律子が入ってきた。しかし、何故か小脇に段ボールを抱えている。
「姉さん、何持ってるの?」
「エレベーターの下で事務員さんに会ったから、私が預かってきたのよ。部長当てよ」
「おう、悪いな」
 律子から荷物を受け取ると、池田は胸ポケットからカッターを取り出して封を切り始める。
「何買ったの?」
 律子が少し身を乗り出す。すると池田の手が滑って律子の手前に刃が向いた。別に回りで見ていて間一髪という程では無かったが、律子は大袈裟に身をよじる。
「やん、傷物にされちゃうわ」
「…変な言い方しないでよ」
「…いて」
 なんで池田が痛がるのかと思ったら、左手の人差し指を舐めている。切ったようだ。
「部長、大丈夫で…って、うわっ!?」
「オ、オイ、大丈夫か!?」
 ソファーにすわっていた紫緒が取り乱して池田の横に来る。その勢いでちょうど池田の前にいた倫子は吹っ飛ばされた。
「いや、カッターじゃなくて段ボールの切れ端が食いこんだだけだからたいしたことは無い」
「そっか…驚かせるなよ…」
「…こっちの方が驚いたって…」
 床に尻餅を着きながら、倫子が誰にも聞こえない声で嘆く。池田は財布を取り出した。
「…財布?」
 するとそこから出てきたのはバンドエイドだった。それを指に巻く。
「何故財布にバンドエイドが?」
「財布はいつも持ち歩いているからな。携帯するには一番いいだろ」
「はあ…豆というかなんというか…」
 池田は段ボールから荷物を取り出す。出てきたのはキャリバースティックだった。
「も、もう1本? という事は、これで佐藤先輩と互角に…」
「先にやるか?」
 思わぬ池田の言葉。倫子はびっくりして立ち上がった。
「え!? いいんですか?」
「傷口が少し馴染むまでいいよ」
「はい、有り難く…」
 そんなわけで佐藤との対戦が続く。スティックの力を得た倫子は佐藤と互角にやりあった。
「はあ…やっぱ対戦格ゲーは面白い…」
「なんだ、まだ買ってねえのか?」
「ええ、スティックまで買うことを考えると…」
「別に大して高いものでもないだろう」
 佐藤と池田の買え買え攻撃。しかし今回は倫子は誘惑に負けなかった。
「でも、今月はFF10-2もスターオーシャン3も三国無双2も出るんで…って、え?」
 一瞬にして場が凍りついた。上岡は先程から凍りついたままであるが。西村だけが笑顔でSPで遊んでいる。
「い、いや…別に全部買うわけじゃ…キャリバーも含めて、どれ買おうかなあって、まだ迷っている段階で…はは…」
「所詮お前はマトリックス見て喜んでいるような衆愚に過ぎんという事なんだよな」
「えっと…いやまあ…。…見ましたけれど」
「結局テメエは踊る大走査線見て喜んでいるボケと一緒ってわけだな」
「あのその…まあ、それも見にいきましたけれど…」
 散々コケにされて萎縮する。
「だけど、本当に3月はゲームが出過ぎですよね…。いくら決算前だからって、そんなに出さなくてもと思うんですが…」
「ゲームは発売日初週に九割がた売れる。だからCDと違って3月中に出すと決算にもろに影響するから、決算が赤字になりそうなメーカーほど未完成でも発売してしまったりするわけだ」
「なんでゲームはそうなんでしょうね。昔みたいに行列とかはめっきり無くなりましたけれど…」
「マニアのものだからだろ」
「…別にCDだってマニアはいるじゃないですか」
「音楽のマニアは所詮一万人。ゲームは100万人。その違いだ。だから音楽でもマニアが100万人いるB'zは初週でミリオン近くいくわけじゃねえか。そしてマリオパーティは初週10万でも最後に100万行くんだよ」
「…納得できないけれど反論できない…」
 倫子は一端ゲームをやめる。しかし、池田が入らないので佐藤が1人プレイを始めた。
「あれ…部長、やらないんですか?」
「佐藤に付き合うのに買ったんだが、ピヨが相手するなら俺はしなくていいだろ」
「はあ…まだカスタムロボやってるんですか?」
 池田は先程からずっとGBAだ。今回のカスタムロボはGBAなので2Dになったのだが、その分シンプルでやりやすかったりする。
「いや、もうやってないよ」
「じゃあ何を…えっ!?」
 突然SPを渡される。画面を見る。『走り抜けろ!!』とメッセージが出る。
「え、F-ZERO?」
 任天堂のレースゲームの画面に切り替わる。十字キーを左右に振って車をよける。しかしものの二秒で画面が切り替わった。
「な、何? なんなの?」
 そして画面に浮かび出る文字は『殴り倒せ』。そしてまたゲーム画面が切り替わった。
「あ、アーバンチャンピオン!?」
 しかし一人倒して画面が変わる。その後もアイスクライマーやら、バルーンファイトやら任天堂のレトロゲーのショートバージョンを次々とプレイしていく。
「こ、これは…」
「あ!? 倫子様、メイドインワリオですかぁ!? まりあもやるですぅ!!」
 西村はカービィのカートリッジを抜いて、ポケットから出したカートリッジを入れる。倫子は画面を覗き込んだ。『お手』と画面に出ている。
「うふふ…かわいいですぅ…」
「…犬にお手するだけ…」
 西村のやっているのは動物関係のゲームばかりである。
「メイドインワリオって…変なゲームだとは聞いていたけれど、こういうゲームだったのか…」
「というか、そろそろ返してくれよ」
「ええっ!?  もうちょっとやらしてくださいよ…」
「お前はFF10-2でも買って感動しとけ。俺はそのゲームを極めるだけだから」
「別に両方やったっていいじゃないですか…」
「両刀使いか。ぐふふ…って、グエッ!?」
 佐藤にキャリバースティックの空箱を投げ付ける。顔面直撃でソファーの後ろに崩れていった。
「別に何を買って何をプレイしようが、そのカートリッジは俺のものなんだから、もう終わり。それ以上文句はあるか?」
「…いえ…ありません…」
 
「お会計、一万円になります…」
「…スターオーシャン3とメイドインワリオを買ってしまった…FF10-2は上岡先輩も買うみたいだし貸してもらおう…」
 こうしてオケラになった倫子が次の日登校すると、上岡がまだゾンビになっていた。
「どうしたんですか、上岡先輩…まだSPのダメージですか?」
「…違いますよ。今月、たくさんゲームが出た中で、結局スターオーシャン3にしたんですよ…」
「ゲ、失敗した…、FF10-2買えば良かった…。で、それがどうかしたんですか?」
「うふふふふ…」
「か、上岡先輩?」
 溶け出していく上岡。その首を激しく倫子は振るが、彼の反応は無い。
「ん?…ピヨ、いくらそんな人間のカスでも殺人はいかんなあ…」
 部室に池田がやってきた。相変わらず酷い物言いだ。
「部長…いや、別に私がクビを絞めているんではなくて、上岡先輩がスターオーシャンが…と言いながら気絶したんですよ…」
「ああ、そんな話か。バグが出てゲームが必ず止まるって奴だろ?」
「ええ!? 本当ですか!?」
「初期型PS2だけの話だが、特定のボス戦で必ず止まるらしいよ。上岡の奴は初期型だしな…」
「…わ、私も初期型かも…。と、いうことは交換ですか?」
「…しないよ」
「…は?」
「なんかそのボス戦をやらずに済む方法があるから、それを案内して終わりらしいよ」
「…はあ!? なんですか、それは!? 要するに新しくPS2買えってことですか!?」
 怒り叫ぶ倫子。すると池田がポンと肩を叩きながらPCルームへ向かう。
「なんだ、ピヨにしては随分物分りがいいんだな」
「…なんだよ、そりゃ…」

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2004.1.4